家族みんなで楽しめる“どデカ野球盤” 5・4×5・4メートルの夢

3月24日のイベントで登場した等身大野球盤の試作品。参加者は家族らとともにプレーを楽しんだ(堀江車輌電装提供)
3月24日のイベントで登場した等身大野球盤の試作品。参加者は家族らとともにプレーを楽しんだ(堀江車輌電装提供)
10分の1スケールの野球盤を前に熱く語る堀江泰社長(左)と中村哲郎さん
10分の1スケールの野球盤を前に熱く語る堀江泰社長(左)と中村哲郎さん
車いすの選手たちも参加し、野球盤の試験試合は大いに盛り上がった
車いすの選手たちも参加し、野球盤の試験試合は大いに盛り上がった
ひもを軽く引くと、ピンが抜けてバットを振ることができる
ひもを軽く引くと、ピンが抜けてバットを振ることができる

 “リアル野球盤”の醍醐(だいご)味に、子供たちの笑顔がはじけた! 障害者を支援する中小企業の雄が、『すべての人が一緒になって楽しめるスポーツ』として「等身大野球盤(仮称)」の完成を目指している。鉄道車両の整備などを手掛ける堀江車輌電装(本社・東京都千代田区)が障害者支援事業の一環として行い、この春には都内で、5・4×5・4メートルの巨大野球盤の試験試合が開催された。プレーしたくてもできなかった野球の楽しさに触れた子供たちはもちろん、家族らも笑いと涙のあふれる一日となった。

 たった1センチ、指を動かすことが夢の始まりとなる。運動の得意不得意にかかわらず、野球好きが一緒になって楽しめるおなじみの卓上ゲーム野球盤。障害者支援を念頭に、その面白さを実際のスポーツに反映できないかと考えたのが堀江車輌電装の面々だった。

 「例えば指先しか動かない人ができるスポーツは何か考える中で出てきたのが野球盤の発想。スポーツとして、障害があってもなくても楽しめるようなものにしていきたい」と堀江泰代表取締役(39)。始まりは一つの動画だった。首都圏の私鉄各社の鉄道車両整備や点検などを行う同社。6年前、知的障害者サッカー日本代表チームの動画を見て感動した社長は積極的にボランティア活動に取り組むようになった。「でも、ボランティアでは限界がある。会社に『障がい者支援事業部』を立ち上げ、就職に困っている方への就職先紹介や、障害者スポーツの促進などを始めたんです」

 その事業の一環として、今回の野球盤プロジェクトが動いた。開発に携わるのが、同事業部の中村哲郎さん(51)だ。東日本大震災のボランティアをきっかけに障害者支援に尽力。同社の支援活動を知ると、募集をかけていなかったのに入社を希望してきた熱意の人だ。北海高(札幌市)時代には甲子園を目指した元球児で、等身大野球盤も中村さんの発想によるところが大きい。

 3月24日、東京・小平市の小平特別支援学校の体育館に、5・4×5・4メートルの等身大野球盤の試作品を持ち込み、試験試合を実施した。障害者18人を含む“27選手”が参加。実際の野球さながらに「4番サード…」などの場内アナウンスが流れ、家族や友人らがメガホンを手に応援。試合を追う実況に、集まった約100人は一喜一憂した。

 野球盤の試作品は今回の試験試合で使ったのが『4号機』。盤は主に段ボール製で、ホームからバックスクリーンまで約6メートル。注目は、打撃方法だ。〈1〉45秒で1回転するターンテーブルの上に置かれたボールが目の前に来るタイミングで、打者はバットの先のピンに付いたひもを引く〈2〉留め金のピンが抜けてバットが振られ、ボールを打つ―、簡単にバットが振れるよう、軽く引くだけでピンが抜ける。打球が盤を転がり、ホームランやヒット、アウトの穴に入ってジャッジされるのは、ゲームの野球盤とほぼ同じ。「引く力の弱いお子さんもいるので、1センチひもを引ければピンが抜けます」(中村さん)

 ユニホームを着た車いすの少年との出会いが野球盤への出発点。母親に「どうやったら野球ができますか?」と尋ねられて答えに窮した中村さんは、「そこから、その子に野球をしてもらうにはと、2年かけて考えた」という。

 「初号機」は、プッシュボタンで開く傘を使った。傘の骨に巨人の応援用バットをつけ、開く力を応用してバットが振られる。「いける」と思ったが、協力してくれた重度の障害を持つ子供はみな、傘のボタンが押せなかった。ぼう然自失。だが、この子たちを笑顔にしたいという思いが、社長や中村さんを突き動かす。野球盤を発売するエポック社に手紙を書き、思いを伝えた。同社も障害者支援ならと、背中を押してくれた。

 そして今春、お目見えしたのが4号機だ。バットは木製で約40センチ。ボールは直径約10センチで4グラムほど。アルミ系の箔(はく)でくるみ、打った時に何とか音が出ないか工夫した。「『カキーン』という音が欲しい。視覚が弱いお子さんにとって、音が出れば自分が打った実感が湧く。子供たちは打った音が聞きたい」と堀江社長。求めるのは、金属バットがボールをはじき返すような音。バットのボールが当たる箇所に金属を貼ったり、スピーカーから音を出すなどのアイデアも出た。

 転がってくるボールを打つのが難しいためにターンテーブルを考案。「ただ置いてあるボールを打ってもスポーツにはならない。動くボールを狙うことで、打てなくて悔しいとか、凡退して仲間に申し訳ない思いが出てくる。『悔しい』という感情が生まれるように考えた」(中村さん)

 願いどおり、試験試合で子供たちは一喜一憂した。「思ったより難しく、それが楽しかった」―笑顔の我が子に、父も母も涙を流し喜んだ。その姿に中村さんも優しくほほ笑んだ。「凡退しても、喜ぶお父さんがいました。息子がバットを振れたって」

 堀江社長は「最終的に教育分野にも入っていきたい。小学校の授業になるような。競争心が生まれる授業はあっていい。こういう形でもスポーツを楽しめると伝えていきたい」という。今月下旬にはさらに改良を加えた野球盤を登場させる予定。堀江社長も、中村さんも、子供たちの笑顔を早くまた見たい。(谷口 隆俊)

 ◆堀江車輌電装 1968年6月設立。資本金1000万円。本社・東京都千代田区。鉄道車両の整備・改造・点検事業のほか、技術者派遣なども行う。障害者支援にも積極的で、2015年にはビルメンテナンス会社を買収し、正社員雇用するなどのほか、「障がい者支援事業部」では、障害者と企業を結ぶ職業紹介事業や企業向けの障害者雇用コンサルティング事業を展開。日本知的障がい者サッカー日本代表をサポートするなど、障害者スポーツの促進にも尽力している。

3月24日のイベントで登場した等身大野球盤の試作品。参加者は家族らとともにプレーを楽しんだ(堀江車輌電装提供)
10分の1スケールの野球盤を前に熱く語る堀江泰社長(左)と中村哲郎さん
車いすの選手たちも参加し、野球盤の試験試合は大いに盛り上がった
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