中村時蔵、女形の代表格の“芝居の奥義” 「大事なのは舞台に出る前。そこから演じなければ役にはなれない」

自身の半生を語る中村時蔵
自身の半生を語る中村時蔵
中村時蔵 家系図
中村時蔵 家系図

 中村時蔵(63)は女形の代表格の一人で国立劇場・歌舞伎俳優養成科の講師も務める。今月は東京・歌舞伎座「四月大歌舞伎」で「新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)」に出演中だ。早くに父(4代目時蔵)を亡くしたが、偉大な女形2人から授かった「役になりきる」の言葉をいまも胸に、芸の高みを歩む。強じんな精神力で自身を律し、古典の品格と華やかさを身につけた。この人ならではの“芝居の奥義”に触れてみたい。(内野 小百美)

 若い男を巡る壮絶な三角関係を描いた「野崎村」の段。時蔵演じる主人公「お光」は働き者で機転の利く田舎娘。祝言直前で“事件”は起きる。喜怒哀楽の全てを表現しなければならない人気の役どころだ。

 「歌舞伎では大変珍しく、主役が幕切れに泣いて顔を伏せて終わる。常に新しいものを求めた6代目尾上菊五郎がつくり上げた。(7代目尾上)梅幸のおじさまの教え通りに演じています。どこまで期待に応えられているか、気になりますね」

 初舞台から2年後の6歳で父(4代目時蔵)を亡くした。並大抵の苦労でなかったはずだが「歌舞伎をやめたいと思ったことは一度もないんですよ」と振り返る。

 6代目中村歌右衛門、7代目梅幸。歌舞伎界の至宝といわれた女形2人を芸の恩人に挙げる。ともに繰り返した言葉が「役になりきる」だった。使われやすい表現だが果てしなく深い。時蔵はその意味を、いまも反すうする。「それがいかに大事でどれだけ難しいか。できる限りの準備は当然のこと」

 芸域の広さ、世話女房的な役に定評がある。女形の代表格の一人。舞台に登場したときが勝負だという。どんな人物なのか、観客に瞬時に理解させなければならない。

 「役の人物が悲しいのかうれしいのか。本当に大事なのは舞台に出る前です。誰も見ていないけれど、そこから演じなければ役にはなれない。僕の場合は、ですけれどね」。“役になりきる”ナゾ解きの一端を明かす。「若い娘と女房役とでは声も違う。意識して変えていません。役をつかまえ、役になりきると自然に変わるものです」

 07年から歌舞伎俳優を育てる国立劇場養成科の講師を務めていることも、俳優観に変化を与えた。「経験者に教えるのと違い、一から教える重み。全て洗い直します。台本を読み、記憶の確認でビデオを見直して。自分の勉強にもなる。ありがたい」。芸の伝承に決して間違いがあってはならないと考える。

 「彼らがいないと、これからの歌舞伎界は成立しません。彼らがもっと夢や目標を持てるようにすることも大事です」。26日に64歳になる。「気持ちはいまも若手。舞台では毎回後悔の連続で。まだまだ勉強することが多くて。悪戦苦闘し続けるのだろうと思います」

 時蔵といえば美しい白髪。20代から白い物が目立ち「30歳の結婚式前、美容院で写真は一生残るから」と初めて染めて50歳まで続けた。「染めない今は楽。でも、どこにいても目立ってすぐ気づかれます」と苦笑。日本画など多趣味で最近は陶芸も。「土と手が一体にならないと、ろくろはうまく回せない」舞台と違った緊張感がリフレッシュにつながっている。

 ◆中村 時蔵(なかむら・ときぞう)1955年4月26日、東京都生まれ。63歳。4代目中村時蔵の長男。60年4月に3代目中村梅枝を名乗り初舞台。81年6月歌舞伎座「妹背山婦女庭訓」のお三輪ほかで5代目中村時蔵を襲名。長男は中村梅枝、次男が中村萬太郎。いとこに中村歌六、中村又五郎、中村獅童がいる。屋号は萬(よろず)屋。

 ◆身内から見た時蔵の素顔

 中村錦之助(弟)「私の小さいときから親代わりに面倒をみてくれた。巡業に行くと特に分かるのが、食べ物の好みが全然違うこと。私はエスニックや変わった味、変わった場所にあるお店が好きだけど、兄は居酒屋に行くにしても名の通ったお店でオーソドックスな品を注文。総領のようで普通の兄弟とはちょっと違っていますね」

 中村獅童(いとこ)「小さい時から頭が良くて品が良くて格好いい“兄さん”。年が離れていることもあってプライベートのことはあまり話したことがなかったのですが(15年に)再婚するとき、ご夫婦で食事に連れて行ってもらった。披露宴の席順のことやしきたりとか、たくさんアドバイスしてくださった。萬屋の長ですから、頼りにしています」

 中村梅枝(長男)「山登りやゴルフも楽しむアウトドア派。家に仕事を持ち込まない。早くに父を亡くし、苦労したはずなのに『苦労した』という話は一度も聞いたことがない。裏表も全くない。同じ女形の先輩で教わることは多い。押しつけずに『俺はこう思う』と。孫の前では優しいおじいちゃん、好々爺(こうこうや)ですね」

 中村萬太郎(次男)「格好いい面と参ったなぁと思う面があります。基本的に自分の言ったことは絶対に曲げない。昔ながらの頑固おやじタイプ。相手によって主義、主張を変えることをしない。一貫しています。夢を壊すようですが、家でビール飲んでガーっと寝ている姿も。そんなところは自然体なんでしょうか」

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