貴景勝の「ごめんね」が意味するもの 感謝と思いやりの新大関

大関に昇進した貴景勝
大関に昇進した貴景勝

 「立場が人を作る」というが、本当だろうか。大相撲の春場所で貴景勝(22)=千賀ノ浦=が大関昇進を決めた。私が大相撲担当記者となった昨年の九州場所、小結で初優勝した。それから4か月。九州から躍動の3場所を経て番付を駆け上がり、大きな夢の一つをかなえた。大関は、横綱に次ぐ角界の顔。給料や待遇など全てが三役以下とは“別格”になる。貴景勝という「人」がどう変化していくか、気になってもいた。

 4月4日の春巡業、豊岡場所。朝稽古後、取材に向かった。すると「ちょっと、後にしてもらってもいい?」。貴景勝は、その時間を休息に充てていた。「では全部終わって、髪を結っている間に取材をお願いできますか?」と聞くと、「うん」と返ってきた。3月27日の大関伝達式から、多忙な日々を送っている。行く先々で報道陣にも囲まれる。疲労の色も見え隠れしていた。

 巡業が終わり貴景勝がシャワーを浴びている間、外で待っていた。次の巡業場所まで関取衆は一緒に移動するため、取材に時間はかけられない。多少の焦りもある中、貴景勝が出てきた。髪は結い終わっていた。まずい。話を聞けないかもしれない。焦りに焦った時、大関は言った。「おったおった。中で髪結ってたから。取材だったよね」。私たち報道陣のことを気にしてくれていた。

 貴景勝の気遣いにグッときたことは、これまでにもあった。春場所12日目。豪栄道(境川)に敗れ、3場所ぶりに連敗した。大関取りへ、正念場の後半戦での連敗。悔しさは察するに余りある。貴景勝が帰りの車を駐車場で待つ間、小学生くらいの女の子が色紙を片手に持ち、手を振っていた。気が付いた貴景勝は、その子を手招きした。しかし駐車場は規制エリア。女の子は、警備員に止められた。すると自ら歩み寄り、色紙にサインを書いた。

 話を豊岡巡業に戻す。着替えも終えた貴景勝は、後は帰るだけ。私たちとしても、時間を取らせるわけにはいかなかった。取材の後、雑談に応じてくれることも多々ある。だがこの時は、その時間もなかった。貴景勝は取材を手短に終わらせた私たちを気遣い、「ごめんね」と一言。肩にそっと手を置いてくれた。

 本場所の取組で負けた後、支度部屋での取材まで時間をかけることがある。悔しい気持ちと向き合い、気持ちを整えているのだと思う。だが「よし、いいよ」と話を始める時は、いつもの貴景勝だ。勝っても負けても同じ口調。取材に対する、真摯(しんし)な姿勢が伝わってくる。大関になっても、その態度は変わっていなかった。大関という立場にふさわしい、人を大切にする力士のままだった。伝達式で述べた「感謝の気持ちと思いやり」という言葉。まさに、新大関そのものを表していた。番付を駆け上がろうとも、貴景勝という「人」は変わらない。そう思わせてくれる、22歳だ。(大谷 翔太)

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