右手のガッツポーズに込められたフィギュアスケート・羽生結弦の思い…

2019年3月23日、世界選手権男子フリーで演技後、ガッツポーズの羽生結弦(カメラ・相川 和寛)
2019年3月23日、世界選手権男子フリーで演技後、ガッツポーズの羽生結弦(カメラ・相川 和寛)
2018年2月17日、平昌五輪フリーの演技を終え、ナンバー1ポーズをとる羽生結弦(カメラ・相川 和寛)
2018年2月17日、平昌五輪フリーの演技を終え、ナンバー1ポーズをとる羽生結弦(カメラ・相川 和寛)

 2枚の写真を見比べた時、違いに気付いてもらえるだろうか。ともにフィギュアスケート男子の羽生結弦(24)=ANA=のフリー演技直後の写真だ。1枚目は今年3月に行われ、銀メダルとなった世界選手権(さいたまスーパーアリーナ)、2枚目は連覇を成し遂げた昨年2月の平昌五輪(韓国)。どちらも私が現地で取材し、カメラのシャッターを押した。フィニッシュの体勢はもちろん違うが、それ以外に大きく異なるものがあった。

 昨年11月に右足首を負傷し、4か月ぶりの復帰戦となった世界選手権。羽生はショートプログラム3位で首位のネーサン・チェン(アメリカ)に10点以上の差をつけられた。逆転優勝が厳しい状況で迎えたフリー当日。満員の観客が大歓声を送り、その後、会場を包む一瞬の静寂―。

 羽生の演技がスタートし、リンクサイドで撮影する私の緊張感も最高潮だった。「手汗、半端ないって」。シャッターを切る右手は、恥ずかしくて誰とも握手ができないほど大量の汗がにじんでいた。 2019年で最も集中した4分間。リンクを“支配”する王者の姿に圧倒されながら写真を撮り続け、率直に思った。「羽生、すげえ」―。いや、本音を言ってしまえば「ぇ」を6つくらい足して「すげえぇぇぇぇぇぇ」だったと思う。

 大逆転するには一つのミスも許されない状況で、ジャンプの着氷でほんの少しだけ乱れたが、転倒もなくほぼミスのない演技。フィニッシュ後に羽生は右手の拳を突き上げた。私は演技中、緊張感と高揚感に絶えず襲われていたが、羽生のガッツポーズに、ふと我に返った。「あれ、あの時と違うな…」。リンクを「くまのプーさん」の“嵐”が襲い、会場のボルテージは最高潮に達していたが、私の疑問は、わずか数秒の間に大きくなっていった。

 平昌で金メダルを獲得し、五輪連覇を達成した時、羽生は演技後に人差し指を天高く突き上げ、ガッツポーズを作った。その姿は1年以上経った今でも脳裏に焼き付いている。しかし、先日の世界選手権では人差し指が立つことはなかった。

 「あの瞬間に勝てたという確信は平昌五輪の時と違ってなかった。勝てたと思った時は指を突き上げるけど、今回は厳しいと思った」と羽生。復帰戦に向けて血のにじむような練習を積み重ね、一番追い込んだ日には涙を流したという。苦難を乗り越えて帰ってきたリンクで圧巻の演技を見せ、思わず感極まりそうなものだが、羽生は至って沈着冷静だったということがわかる。

 結果はショートプログラムから順位を上げたが、ネーサン・チェンに及ばず銀メダル。羽生は「かっこいい。これで本当に10代?」と賞賛しながらも「超えたい存在が出てきてうれしい。『勝ちたい』とすごく思う」と語った。

 フリー演技直後のガッツポーズには、羽生の秘めた思いが込められているのではないか―。もう一度、2枚の写真を見比べてみると、平昌五輪の写真は「今までのことをやりきったぞ!」という過去に向けた表情なのに対し、今回の世界選手権は「これから俺はやってやるんだ!」という未来への強い意志が伝わってくる気がする。フリー演技が行われた夜、彼の写真を何度も見返しながらそう考えた。

 「平成」のフィギュアスケート界に燦然(さんぜん)と輝く実績を残し、圧倒的な人気を誇る羽生結弦という唯一無二のスケーター。「令和」という新たな時代になっても、常に高みを目指し努力する姿にファンは歓声を送り続けるだろう。その雄姿を撮り続ける私も彼をファインダー越しに応援していきたい。そして、再びナンバーワンポーズをする王者の姿をカメラに収めたい。(記者コラム・相川 和寛)

2019年3月23日、世界選手権男子フリーで演技後、ガッツポーズの羽生結弦(カメラ・相川 和寛)
2018年2月17日、平昌五輪フリーの演技を終え、ナンバー1ポーズをとる羽生結弦(カメラ・相川 和寛)
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