吉田沙保里さん×上野由岐子「五輪とは?」同学年レジェンドが対談

スポーツ報知
レジェンドの呼び名にふさわしい吉田さん(右)と上野。五輪という舞台を熱く語り合った(カメラ・小泉 洋樹)

 2020年東京五輪の開幕まで、12日であと500日。レスリング3大会連続金メダルの吉田沙保里さん(36)と、ソフトボール08年北京五輪金メダルの上野由岐子(36)=ビックカメラ高崎=の同学年レジェンドが五輪を語り合った。吉田さんは今後もスポーツ報知でアスリートとの対談を行う予定。20年大会まで随時掲載していきます。(取材・構成=高木 恵、太田 倫)

 ―2人はアテネ、北京と一緒に五輪に出ています。

 吉田(以下吉)「アテネの時はあんまり…」

 上野(以下上)「自分らは銅メダルで、どちらかというとチーンという感じだったので(笑い)」

 吉「北京の後、番組で一緒になったりとかね」

 上「呼ばれるたびに会うみたいな」

 吉「それで『同級生だね~』っていう話で盛り上がって」

 ―吉田さんは今年、引退。

 吉「お先に!(笑い)。同級生が頑張っているのは、すごいうれしい。上野さんは期待の星だよ」

 上「最近は同じ年代の選手がどんどん引退していて。自分も考えさせられました」

 吉「あら。なんか引っ張っちゃってる?(笑い)。いやいや、絶対頑張ってよね」

 上「そういう年だよなって。引退をしたいとは全然考えていないです。でも年相応というか、そろそろ身を引く年頃なのかなって」

 吉「いやいや、東京まではやってください。人ごとみたいに言ってるけど(笑い)」

 ―吉田さんは若手の成長に安心して引退。ソフトボールは少し物足りなさも?

 上「そうですね。だから、やめられないのかもしれない」

 吉「それがすごい。上野さんを超える人が出てこないのが、これまたすごい。82年(生まれ)ってすごいな。康ちゃん(北島康介)もそうだけど」

 上「そうそう、同級生なんです」

 吉「戌(いぬ)年ってすごいんだよ。ひと回り下の選手もすごいの。大谷(翔平)くん、萩野(公介)くん、羽生(結弦)くんとか金メダリストがいっぱいいるの」

 上「ちなみに私のボールを捕っているバッテリーの我妻(悠香)も戌年です。ひと回り違うんです」

 吉「今も上野さんがボールは一番速い?」

 上「一応」

 ―長期にわたってトップで活躍してきた2人。衰えを感じることは?

 上「疲労感が抜けない」

 吉「だんだんね」

 上「前はこんなはずじゃなかったのに、と思う瞬間が…」

 吉「30歳を超えたあたりからね。だんだんね」

 上「30になって体の変化はすごい感じるようになりました。食事も同じものを食べているけど、身につき方が違う」

 吉「はっはっは(笑い)。分かる~。動いているんだけど、脂肪になるみたいな」

 上「ナメてたと思いましたもん。たかが1歳ぐらいって思っていましたけど、29から30になった途端に、急に周りの選手から『上野さん、おなか出てきました?』とか言われることがあって。『あれ!?』って(笑い)」

 吉「練習量も変わった?」

 上「練習をやりすぎるとできなくなっちゃう。最近は1日おきくらいがちょうどいいなって思ったりして。毎日やると疲れてパフォーマンスが落ちちゃう」

 吉「私は結構、抜き方がうまかったから、ここまで続けられた。最後の方は集中力が本当に短くなっていて。3時間の練習のところを2時間集中。若い時はどれだけやっても良かったけど」

 上「やったらやっただけうまくなる感覚が若い時にはあった。1分1秒がもったいなかった。みんなよりも1秒でも1分でもいいから長く練習したら、うまくなるって思っていた。みんなが寝たら練習をやめる。みんなが寝て、そろそろラストかなみたいな感覚」

 ―練習量を減らすのは勇気がいることでは。

 上「北京が終わって、テンションがガーンと落ちちゃったので。五輪もなくなって。やる気とともに練習量も落ちちゃった。何かをきっかけに量を少なくしたというよりは、気持ちとともに量が減った感じ」

 吉「でも、そこからよく…」

 上「チームだからやってこられた。練習にも行きたくなかったし、朝も起きたくない。何のためにソフトボールをやっているのか分からない。やめられるんだったら今すぐやめたいみたいな感じ。ただ、チームの監督が『お前はやめないことに意味がある。やる気はなくていいから、やめないでいい。やりたくなったらまたやればいい』って言ってくれて。グラウンドに引き留めてくれて今があります」

 吉「どれくらいで気持ちが上がってきたの? 東京五輪が決まって?」

 上「正直、五輪に出たいとは思っていなかったです。やりきった感がありすぎたので。アテネから北京までの4年間が自分の人生で一番つらかった。だから、またあのつらいことをするのかと思うと、なんかこう…五輪に出たい!みたいな気持ちにはなれなかった」

 吉「つらかった?」

 上「精神的にも、いろいろプレッシャーだったり、背負っているものがポジション的にも大きかったので。腹をくくる勇気がなかった」

 吉「北京の決勝は何を考えて投げていたの?」

 上「ただただ楽しかった」

 吉「え~!」

 上「投げていて自分がどんどん進化している感覚があって。すごくいろいろなことが見えていた。このまま投げ続けたら、自分はもっと進化していくんじゃないかなという感覚。疲れているという次元ではなかったです。もっとその…何かが舞い降りている感じ。初めての経験でした」

 吉「無の世界だ!」

 上「ゾーンとよくいわれる感じですかね」

 吉「何が見えていたの?」

 上「軌道が見えるっていう感じ」

 吉「ここに投げていたら打たれないみたいな?」

 上「そう。ちゃんと、その軌道通りに投げたら絶対に打たれないという、線みたいなものが見える」

 吉「線?」

 上「はい。調子がいい時はバッターが立った時にフルスイングの軌道が見えます。構えの時点で。バッターは構えで癖が出るので、それを見抜いて配球していくんですよ。もちろんデータ的なものや駆け引きもあるけど。バッターの軌道がパッパッと出てくるので、その隙間に投げられればバットに当たらないんですよ」

 吉「私、ゾーンが分からなくて。でも自然と何も考えずに体が(タックルに)入っているのがゾーンなのかな。終わった時は?」

 上「いやー、もう興奮状態。金メダルを取ったというだけで興奮状態でした。ずっと連投で手もボロボロだったし、あっちこっち痛かったことは覚えているけど、そんなことどうでもいいんだよって感じ」

 吉「うん、うん」

 上「北京は自分たちも(五輪が)最後って分かっていた大会だったので、これでソフトボール人生が終わっていいと思って臨んでいた。これで金メダルを取れなかったら、もう自分にはその力はないんだって諦めようと。その代わり全てを懸けようって」

 吉「413球でしょ?」

 上「投げられる、投げられないではなくて、投げられるだけ投げよう。投げられなくなったら交代と思っていた。これで選手生命がなくなってもいいと思っていた。なので、終わってからのズドーンが大変でした」

 吉「これは『深イイ』でも出せるし『波瀾万丈』でも出せますよね(笑い)。北京と同じようなモチベーションを作っていく?」

 上「もう、あれは二度とこないので。東京は新しい自分を出す場所。10年以上たっているので、あの時みたいな体力もない。ただ知識も技術も増えたし、また違った形のピッチングスタイルができると思う。過去にすがっても前に進めない。あの時みたいなピッチングをしたいとも思っていないし、できるとも思っていない。ただ『やっぱり上野だね』と言われるようなピッチングはしたい」

 吉「かっこいい!」

 上「勝たないと、やっぱり注目してもらえないので」

 吉「そうそう。そこが私たちマイナースポーツの宿命というか。五輪は夢だから。五輪に出たい、金メダルを取りたいという夢があったから、ここまでやってこられた。夢の場所。誰もがそこにいけないからこそ、また目指したくなる」

 上「子供たちも『五輪に出たい』とは言うけど『世界選手権に出たい』とは言わないんですよ。そこに特別感があるんだと思います」

 吉「やっぱ五輪ってバーンと出るじゃん?」

 上「誰もが知っている。北京を見てソフトボールを始めましたっていう子供たちがすっごい増えた。逆に、そこでなくなってしまったことに申し訳ない気持ちの方が大きくて。同じ目標を持ってもらいたい。ただただそれだけ」

 ―競技の顔としての重圧とは、どう向き合ってきた?

 上「自分はどちらかというと注目してほしくないので…」

 吉「えー。私は注目されたい」

 上「放っておいてという感じ。山田(恵里)がメダリストとして現役で頑張っているので『自分だけじゃないし。山田の方に行って』っていつも思っていた」

 吉「でも、その中でも負けず嫌いはあるでしょ?」

 上「そうですね。ソフトボールのプレーに関しては今でも若手には負けないと思ってやっています」

 吉「かおりん(伊調馨)タイプかもね。自分を追求して頑張っているタイプ」

 ―吉田さんは注目は歓迎?

 吉「期待されるとうれしかった。でも最初は慣れてなくて、取材が嫌で。こんなに昔はしゃべれないし」

 上「逆に私は若い時の方が全然気にならなかったし、むしろ見られることで、ちゃんとやらなきゃと。でも、その環境がだんだん増えすぎちゃって。試合前に練習しているところをカメラで撮られると集中できなかったり」

 ―東京五輪は一つの区切り?

 上「集大成にしたいなとは思っています。現役でやっていくのか引退するのかは、その時に感じた気分で決めようと思います。結果であったり、いろいろなことで心境の変化があるので今決めるべきではない。ただ、どっちに進んでも後悔はしないと思っています」

 ―吉田さんはリオで終わりと思って臨んでいた。

 吉「4連覇したら終わるって勝手に決めていた。父に『華がある時にやめなさい』って言われていて。でも負けてしまった。次は東京五輪。周囲から『金メダルを取る姿が見たい』と言われて。考えたけど、気持ちが追いつかないんだよね。どっかで切れちゃったから。2年前になって『ないな』と思った時に、早めに引退するという形を取らせていただいた。後輩たちも集中できないし。もう『引退します!』って言おうってね」

 上「言っちゃった方が楽です」

 吉「そうそう。言うまでがね。言うのは勇気いるんですよ。ここまでやってくると」

 ―吉田さんの夢は結婚。上野さんの夢は。

 上「『ピッチング道場』みたいな。それをアメリカンスタイルでやりたい。お金を払ってでもソフトボールをうまくなりたい。もっといいピッチャーになりたい、って思ってる子供たちを本気で教える道場みたいなのをつくりたいです」

 吉「素晴らしい!」

 ―吉田さんは東京五輪でソフトボールを見に?

 吉「行きたい! 私たちの分まで頑張ってといったらおかしいけど。いろいろなものを背負わないといけないけど、それも引退したらできないこと。北京に続いて金メダルをね、全員で一丸となって勝ち取ってほしい」

 上「みんなが勝ちたいという思いがつながって結果になる。先頭に立って力を出していければいいなと思います。チームの中でも見られているからこそ、落ち着いて堂々としていられるような準備をしていけばいいのかなと」

 吉「若い時とは違った新しい上野さんを見られるのが楽しみ。背負いすぎず、若い方たちの力を借りて。強敵アメリカを倒して日の丸を一番高いところに揚げるのを見たいよ」

 上「誕生日(7月22日)が開幕日なんです」

 吉「わっ。38?」

 上「ミラクルすぎるっていう…」

 吉「サンパチ、サンパチ」

 上「絶対負けられないやつじゃん。相手がどこでも絶対投げるって思いましたもん。話題がてんこ盛りすぎて、正直そういうのは嫌なので投げたくない。でも投げなければいけない。できればネタになるというか、話題になることは極力避けたいんですけどね…」

 吉「私、行こうか。ピッチャー吉田~、吉田~」

 上「いいですね、友情出演(笑い)」

 ◆上野だけじゃない!充実投手陣

 日本代表の投手は上野に加え、数種類の変化球を操り投球術も巧みな16年日本リーグ最多勝など3冠の藤田倭(やまと、28)=太陽誘電=がいる。昨年11月のジャパンカップ決勝のマウンドを任され、首脳陣の信頼も高い。最速105キロ超の直球を投げ込む浜村ゆかり(23)=ビックカメラ高崎=や、岡村奈々(24)=日立=の両右腕がポスト上野に名乗りを上げる。左腕は最速110キロ超の後藤希友(17)=東海学園高=、ライズボールを駆使する尾崎望良(30)=太陽誘電=が候補だ。

 宿敵は五輪決勝で2度、頂点を争った米国。04年アテネ、08年北京五輪で日本打線を苦しめた188センチの左腕・オスターマンが1月、10年以来8年ぶり(現役は3年ぶり)に代表復帰した。日本は昨年のジャパンカップ決勝でアボットに敗れるなど、左腕を苦手にしている。

 ◆ワンダフル世代

 戌年の1994年度生まれにはフィギュアスケートの羽生結弦、野球の大谷翔平、競泳の萩野公介、瀬戸大也、バドミントンの桃田賢斗、奥原希望、スピードスケートの高木美帆ら世界的なアスリートがズラリ。自身もその一人である柔道のベイカー茉秋が戌年にちなんで「“ワン”ダフル世代」と命名した。ひと回り上の82年生まれも吉田と上野をはじめ、競泳で五輪2大会連続2冠の北島康介、野球界では内海哲也、青木宣親、中島宏之ら名選手がそろっている。

 ◆パリ除外も20年に集中

 24年パリ五輪組織委員会は2月21日にソフトボールの落選を発表。日本代表の宇津木麗華監督(55)は「率直に残念。私自身としては2020年に集中していきたい」と、これまでの若手育成から東京での金メダルに照準を合わせた代表選考を示唆した。野球・ソフトボールが盛んな米国ロサンゼルスで開催される28年大会では復活する可能性もあり「若い世代も育てていく思いは持っていたい」と話した。

 ◆上野の413球 08年北京五輪、上野は8月20日の準決勝・米国戦(デーゲーム)で延長9回147球で完投も1―4で敗戦。同日にナイターで行われた敗者復活戦のオーストラリア戦では延長12回171球の力投で4―3のサヨナラ勝ちに導いた。翌21日の米国との決勝戦は95球完投で3―1の勝利。2日間で3試合413球を1人で投げ抜き、金メダルを獲得。“神様、仏様、上野様”という活躍だった。

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