長野久義を傷つけてしまった1枚の写真、知った気配りと目配り

2012年6月23日のスポーツ報知1面
2012年6月23日のスポーツ報知1面

 「長さん、ごめん」あの日、すぐに謝れば良かった。

 1面に選ばれる写真はさまざま。自分がどんな良い写真だと思っても、そう簡単には紙面を飾ることはできない。時には自分が物足りないと思う写真でもいいと言われることもある。写真の評価は十人十色。良い、悪いは見た人、撮影した人で見方も感じ方も違う。常に100点はあり得ないと言うことだ。

 写真部のデスクはカメラマンが送信してきた1日に2000枚もの膨大な枚数の写真の中から原稿に合い、紙面にふさわしいカットをレイアウターに渡す。さらにそこで紙面を飾る写真と、掲載されない写真に振り分けられる。すべて紙面に載るわけではない。

 いいネタの時は取材相手も好意を持って接してくれるが、悪いネタの時、取材されたくない時などは不快な表情になるのは人間として理解している。“マスゴミ”“パパラッチ”として扱われる時もある仕事だ。

 私は主に巨人を中心に野球を撮影している。好投した投手、試合を決めたホームラン。勝ちゲームは負けゲームより紙面に採用されるシーンをイメージしやすい。しかし、敗戦をどう表現するか。私はその試合全体を通し「この場面だろう」と考えながらファインダーをのぞくようにしている。ケガをした選手が救急車で運ばれる時、成績不振で二軍落ちし球場を後にする時もシャッターを押す。仲のいい選手だから「見なかったことにしよう」はできない。

 2012年6月22日、紙面は長野久義が内角を大きくえぐられるシーンを掲載した(紙面参照)。ヤクルトの赤川克紀投手(当時)を攻略出来ず敗れた試合だ。長野の一打がでなくて負けた試合ではなかったが、敗戦ムードがある写真として採用が決まった。だが記者から連絡があった。「悪夢のシーンを思い出させることにならないか?」と。長野は2011年8月7日の対広島戦で今村猛投手の投球を顔面に受け、左ほお骨にひびが入るケガをしたことがあった。彼は番記者として、長野の心中を気遣ったのだろう。

 翌日、ヤクルト戦で5度目の猛打賞と活躍した長野だったが、新聞に掲載されたのは大西崇之コーチ(当時)に「消極的な走塁だった」と一塁塁上で注意を受けた場面だった。

 その数日後、長野が「もっと良い写真を載せて下さい」とカメラ席にいた私に言いに来た。嫌いだからそういう写真を選択するのだろう…本人はそう思っていたかも知れない。しかし、そうではない。私が巨人戦での写真を会社に送信する枚数は1試合で約100枚を越える日もある。「素材を出すのはカメラマンだが、その素材を調理するのは会社なのだ」と伝えた。

 以前、長野と会食している時に「写真を撮られるのが嫌いなのか?」と聞いたことがある。それは撮る側の私もそうだったから。何となくわかる気がした。「カメラのレンズを向けられると、ドキッとします」と彼は言った。

 選手が遠征のため移動するシーンを撮影する時がある。空港や駅の構内、普段はなかなか見られないスーツ姿は、読者にも評判が高い。しかし見るからに嫌な顔を見せ「撮るなオーラ」を出して、逃げるように改札を出て行くスーパースターもいる。疲れている時も、機嫌の悪い時も僕らカメラマンに追われるのは一流の証でもあるのだが。

 どうしたら撮られないのか。ある日、ジャイアンツ球場で練習を終えた長野の両鼻には、鼻血でも出したのか白いティッシュペーパーが入っていた。「新聞に載せていいですよ」薄笑いしながら家路についた。もちろんイメージを悪くするような写真が採用される訳もなくボツだった。「長野は考えたな」そう思った。

2012年6月23日のスポーツ報知1面
2012年6月28日の1面
すべての写真を見る 2枚
1 2

コラムでHo!とは?
 スポーツ報知のwebサイト限定コラムです。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

巨人

報知ブログ(最新更新分)

一覧へ
NEWS読売・報知 モバイルGIANTS ショップ報知 マガジン報知 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真販売 法人向け紙面・写真使用申請