棚橋弘至という「新日の太陽」は決して沈まない…心の底から実感させられた死闘後の言葉

4日の東京ドーム大会でIWGPヘビー級王座を奪還し観客の大声援に応える棚橋弘至(カメラ・中島 傑)
4日の東京ドーム大会でIWGPヘビー級王座を奪還し観客の大声援に応える棚橋弘至(カメラ・中島 傑)

 私の問いかけへの真摯な答えを聞いた瞬間、この端正なルックスを持ったレスラーが、なぜ長年「エース」と呼ばれ続けてきたのかが心の底から理解できた。

 4日、東京ドームに前年より3167人増の3万8162人の大観衆を集めて行われたプロレス界最大のお祭り・新日本プロレス「WRESTLE KINGDOM13」大会。3年ぶりに東京Dのメインイベントのリングに立った棚橋弘至(42)は対戦決定後の3か月間、互いのプロレス観を巡る“イデオロギー闘争”を繰り広げてきた王者・ケニー・オメガ(36)と対峙(たいじ)した。

 昨年10月の対戦発表会見での棚橋の「ケニーのプロレスには品がない」という発言で火がついた大論争。オメガも「おまえはポンコツだ」と言い返したことから2人の争いは、ほぼ全てのプロレス・マスコミを巻き込み、ヒートアップし続けた。

 私も昨年10月のコラムで会見での棚橋の「プロレスは残酷なものであってはならない」という言葉を引用。論争の背景には危険な技の応酬で過激化する一方のオメガらのアスリート系プロレスの危険性を指摘。棚橋の真意は「相手の技を受け切った上で観客を楽しませるプロレスこそ王道」という考えにあると分析した。

 この日のリング上でも2人は好対照な戦いぶりを見せた。オメガがリング下から机を持ち出しながら、流暢な日本語で「品がな~い、品がな~い」と歌って挑発。棚橋はその机に目をやりながらも、ケニーの体をそこに叩きつけるのは自重するなど、互いのプロレス観を十分に見せつけ合った。

 そして、平成最後の東京D大会を彩った大一番は39分13秒の死闘の末、棚橋が勝利。4年ぶり8度目のIWGPヘビー級王者となった。

 試合後の新王者の言葉が、私の記者魂に火をつけた。スタンドを埋めたプ女子(プロレスファンの女性)の涙声での「タナ~」の声援を浴びて、マイクを持つと、「今日はたくさんのご来場、本当にありがとうございました」と、まず満場の観客に頭を下げた。

 続けて「正直言うと、もう、この舞台には帰ってこれないかと思ってました。でも、柴田(勝頼)選手、本間(朋晃)選手ら多くの仲間がエネルギーをくれました。そして、何より僕をここまで押し上げてくれたファンの皆さん、ありがとうございました~」と右手を高々と掲げると、「また、このIWGPのベルトと新しい風景をつくっていきます」と宣言した。

 あまりの死闘に「ごめん。今日は(ビッグマッチでの勝利後恒例の)エアギターやる力が残ってないわ~。あ~、厳しいなあ」と言いながらも、熱過ぎる声援に応え、「じゃあ、1回だけ。ド~ム~、盛り上がって行こうぜ!」と、エアギターをかき鳴らした。

 約80人の記者が待ち受けた会見場でも“棚橋節”は全開。右肩にベルトをかついで大きく息をつくと、「ああ…。何回も巻いてきたベルトなんですけど、初めてベルトを巻いたような感覚です」と正直にポツリ。「リング上でも言いましたけど、自分1人では(主役の座に)戻ってこれなかったなと思いますね。他のレスラーからいい刺激を受けたり、頑張って欲しいという祈りに誓いというか、みんなの声援が背中を押してくれました。本当に(昨年8月の)G1クライマックスに優勝できたのも、セコンドから柴田選手がエールを送ってくれたから。感謝しています」と言葉を続けた。

 この日の観客動員大幅アップについても「本当に選手の頑張りとマスコミの皆さんのおかげ。みんなの力で3万8000人を達成できました」と笑顔を見せたから、思わず聞いてしまった。

 「棚橋さんは今日勝った後、リング上でもずっと観客や仲間への感謝の言葉を口にしています。ケニーさんなら勝った後、『俺が最強だ』『俺こそNO1レスラー』だという言葉も出ると思う。イデオロギー闘争は、こうした国民性と言うか2人の違いから来るものだったのでは?」―。

 私の言葉数の多い前のめり気味の質問を笑顔で受け止めた棚橋は、じっとこちらを見つめると言った。

 「僕が、どうして今日ここでメインイベントに立てたかと言うと、2018年、皆さんの声援で勝たせてもらった。そういう意味での感謝なんです」。その答えを聞いた瞬間、全てが腑に落ちた。

 棚橋の「プロレスは激しいものであっても残酷なものであってはならない」という言葉。その背景には、2017年に左肩剥離骨折と上腕二頭筋断裂、昨年も右上腕二頭筋遠位断裂、右ヒザ変形性関節症で戦線離脱と、常に故障との戦いが続くベテランレスラーの現状がある。

 引退に追い込まれてもおかしくない大ケガとの戦いを支え、昨夏のクライマックス優勝、4年ぶり4度目のプロレス大賞MVP受賞、そして、この日のIWGPヘビー戴冠と奇跡的とも言っていいV字回復の原動力になったのが、ファンの熱い声援だと分かっているからこその、この日の言葉だと、私は受け取った。

 昨年は、まさに棚橋の年だった。初の主演映画「パパはわるものチャンピオン」の公開。TBS系ドキュメンタリー「情熱大陸」にもプロレスラーとして初めて出演。まさにプロレス界を超越した活躍が目立ったが、そのポジションが一朝一夕に出来上がったものでないことを多くのファンが知っている。アントニオ猪木氏の残した“負の遺産”に苦しみ、倒産寸前だった新日をあらゆる遠征地に先乗りし地方局の番組にこまめに出演するなど、地道なプロモーション活動で支えたのも、また棚橋だったのを皆、知っている。

 「プロレスラーはファンの皆さんに楽しんでもらって、盛り上がってもらってっていうのがある」という信念のもと、計算づくで「チャラくて底抜けに明るい王者」を、あえて演じ続けてきた棚橋。今年でレスラー生活20周年の「100年に1人の逸材」は、この日も汗まみれの顔で「あっという間でしたけど、こうしてベルトを持って、いいスタートが切れたし、じっくり腰を据えて、新日本プロレスを前に進めていきます」と団体の屋台骨としての覚悟を口にした。

 だから、その言葉を聞いた私も今、自信を持って言い切ってしまおう。棚橋弘至という新日本プロレスが誇る「太陽」は永遠に沈まないと。(記者コラム・中村 健吾)

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