新天地は所沢 新たな野球文化との邂逅 さらに芳醇な味わいを醸し出す内海哲也という名の「古酒」

西武の入団会見を行った内海
西武の入団会見を行った内海

 内海哲也という古酒は来季、どんな香りと味で、僕たちを魅了するのだろうか。

 2006年秋。巨人退団を決めた桑田真澄さんに、独占インタビューを敢行した。進路を巡る報道には様々な臆測が飛び交い、桑田さんはマスコミ対応を硬化していた。番記者だった私は「桑田さんの本当の思いを、しっかりと読者に届けたいのです」と手紙をしたため、本人に手渡した。熱意は通じた。数日後、本人から「今夜だったら大丈夫」と電話があった。深夜、都心のワインバーに向かった。

 ジャズの生演奏が鳴り響く店内。大事な言葉がかき消されては、まずい。私はテーブルに置いたICレコーダーを、さらに桑田さん側へと近づけた。巨人のユニホームに別れを告げるが、メジャー挑戦を視野に現役を続ける意向だという。ならば桑田さんの引退は、いつになるんですか。そんな私の不躾な問いに、18番はワインを味わいつつ、答えた。

 「ワインにも5年もの、10年もの、20年もの…といろいろあるよね。種類によって、そのワイン特有のピークがあるんだ。年月の経過とともに味も上昇線を描き、一番いい時を迎え、そこからまた下がってくる。それぞれにおいしさはあるんだけど、僕はね、このなだらかな下降線を描く時の味が好きなんだ。『古酒』と呼ぶんだけどね」

 ほう、古酒ですか―。

 「いいワインはね、緩やかな下降線を描いてくる。ワインも選手も降りる時が大事。僕はね、『思い残すことはない、やるだけのことはやった』と思ったら、潔く辞めると思うよ」

 この年、巨人の先発ローテーションへ新たに定着した男が、24歳の内海だった。開幕は中継ぎだったが、直後に負傷した高橋尚成の代役として先発すると、そのままシーズン12勝をマークしたのだ。Bクラスに沈んだチームにとって、若き左腕の躍進は光明だった。

 その年から9年連続で規定投球回に到達。11、12年には2年連続の最多勝。リーグ優勝6度、日本一2度の立役者となった。もうあの頃のような140キロ後半の剛速球はないが、経験を武器にした老練な投球術で、今季も7月31日のDeNA戦(横浜)では4年ぶりの完封勝利を挙げている。

 思い出す。06年9月24日の午後、G球場で行われた桑田さんの「お別れ登板」を、内海はクラブハウスの脇からそっと見守っていた。その日、1軍は東京Dでナイターの阪神戦だった。あれ、哲ちゃん、早くドームへ行かなくていいの? そんな私の問いに、サウスポーはこう話した。「桑田さんの姿、しっかり目に焼き付けようと思って」。エース道はその後、確かに引き継がれることになる。

 2018年師走。内海の新天地は所沢に決まった。同じ野球をやることは変わらないが、巨人と西武では球団のカルチャーが大きく違う。2月のキャンプインからは発見と勉強の日々になるはずだ。全てにおいて手を抜かないベテランの奮闘は、若獅子にとっても生きた教科書となるに違いない。新たなチャレンジによってその野球人生は、さらによきものとなるだろう。

 ライオンズから求められての移籍によって、プロ野球人生の第2章が幕を開ける。内海よ、これからも俺たちを酔わせてくれ。若手には醸し出せない、芳醇なオンリーワンの味わいで。(野球デスク・加藤 弘士)

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