【有森裕子コラム】四つんばいのタスキ渡しは美談ではない

 先月行われた全日本実業団対抗女子駅伝の予選会で、岩谷産業の飯田選手がレース中に足を骨折し、約200メートルの距離を四つんばいで進んでタスキを渡したことが話題となりました。

 映像を見た時には「対応が間違っているところがある」と感じたところはありましたが、そこまで気にはしていませんでした。ところが、翌日になって「美談」となって報じられているのを見て驚き、アスリートの立場から声を上げなければいけないと思いました。

 「這(は)ってでもタスキをつなぐ」行為は、立場によって考え方が大きく異なります。私が彼女であれば同じことをしたと思いますし、「当たり前のこと」と思う選手もいるかもしれません。アスリートとしてやるべきことをしただけで、「すごい」と褒められることではないのです。

 駅伝は陸上の中で数少ない団体競技であることに加え、「チームのために」とタスキをつなぐことには、日本ならではの精神や文化が詰まっています。だからこそ、美談として受け入れられてしまうのかもしれませんが、それは間違っています。その意味でチームの監督がSNSで「決して美談ではありません」ときっぱりおっしゃったのは良かったと思います。

 「よく頑張った」と声をかけることはいいことだとは思いますが、美談とすることではないと思います。それよりも、監督の意思が現場に伝わるのが遅かったことや、審判員が感情的になってレースを止めることを躊躇(ちゅうちょ)した部分があったことに対して、問題提起していく必要があります。何より、飯田選手のインパクトが強過ぎてあまり注目されていませんが、三井住友海上の岡本選手が脱水症状で意識もうろうとなって逆走し、倒れ込んで棄権したことこそ、危機管理の課題として注目されるべきことだったと思います。(女子マラソン五輪メダリスト)

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