Wバイオリン&ピアノのインスト・ユニット「TSUKEMEN(つけめん)」のリーダー・TAIRIKU(34)の父は大物シンガーの“あの人”だ。40~50代の女性を中心に絶大な支持を集める3人組を率いるイケメンの父は、さだまさし(66)。ユニークなユニット名の考案者でもある。人々の心を動かす洗練された音楽の遺伝子を受け継いだ3人は、クラシックをベースにした唯一無二のジャンルを確立。海外公演も積極的に行うなど活躍の場を世界へと広げている。
結成は2008年。すべては、あの一言で始まった。TAIRIKU、SUGURU(32)、KENTA(34)の3人がユニット名を考えていると、たまたま顔を見せた、さだがつぶやいた。
「おまえたち、イケメンまでいかないから、その手前でツケメンくらいじゃないか?」
これが「関白宣言」「案山子」「雨やどり」など多くのヒット曲を持つ大物シンガー・ソングライターのネーミングセンスなのだろうか。偶然にも3人のローマ字での頭文字「T」「SU」「KE」に男の「MEN」で「TSUKEMEN」。3人は代替案を模索したが「TSUKEMENを超えるインパクトのある名前が浮かばなかった」(TAIRIKU)ことから、正式なユニット名になった。
「名前を見ると、めちゃダサいんですよ。今もダサいなぁ~って思います。でも、話題にしてもらえる。今日もこうやって、由来を聞いてもらえる。それだけでも成功かな」とSUGURUが話せば、KENTAも「かっこよくはないけど、すてきな名前だなって思ってもらえるように頑張りたい。でも…改名のチャンスはひそかに狙ってますけど」
リーダーのTAIRIKUは父と同じ音楽の道を選び、父も志したバイオリニストになった。
「『さだまさしの息子』と言われることは一生ついて回るもの。プレッシャーに感じることなく、プラスに捉えています。バイオリンを始めたのは、父の影響というより、おばあちゃんに勧められたから。父に教わった記憶はほとんどない。今も特にアドバイスはないですけど、名前についてはものすごい傷痕を残しましたね(苦笑い)」
父は仕事が忙しく、外出が多かった。それでも心に刻まれる言葉を受けてきた。
「決して言葉は多くはなかったけど、僕のことを尊重してくれて、『自分の好奇心にしたがって、周りを気にせず、やりたいことを信じてやれ』と。ミュージシャンとして活動することを決めた時にも『どんどんやればいい』と」
音楽だけでなく、小説や映画の世界でも才能を発揮する父を「人としての時間の使い方、キャパシティーの広さがすごい」と尊敬。ただ、バイオリンの腕前は「下手限界。これ以上、下手になることはない」と父は自虐しているという。
「関白宣言」の父はやはり亭主関白なのだろうか。
「まったく逆(苦笑い)。気さくな印象が強いと思いますが、そのままですね。1万人と話す時と、僕ひとりに向き合う時が同じ。裏表のない人です、ほんと」
TSUKEMENの3人は、いずれも幼少期から音楽に親しみ、音大で腕を磨いた実力者。Wバイオリン&ピアノという独自のスタイルは音楽性より人間性を重視した結果だ。
「楽器編成というより、この3人ありき。3人の波長が合って、雰囲気が良かったから、うまくやってこられたと思います」
10年3月にアルバム「BASARA」でメジャーデビュー。当初はクラシックを中心に演奏していたが、現在は3人とも作曲し、ほとんどがオリジナル曲。ロックやポップスの要素も取り入れ、独自のジャンル「TSUKEMENサウンド」を確立。今年10周年でリリースした記念アルバム「10」はクラシックチャート1位を獲得した。
9月には、長崎・浦上天主堂でスペシャルライブを開催。作詞・さだまさし、作曲・TSUKEMENによる初のコラボで誕生した合唱曲「時を超える絆」を初披露。歌は聖和女子学院コーラス部が担当した。
「教会は独特な雰囲気。たくさんの観客の方々が泣いているのが見えて、込み上げてくるものがあった」とSUGURU。KENTAも「さださんの詞がものすごく心に染みてきて、すてきだなと思った」。TAIRIKUにとっては、父のふるさとへの“凱旋”となり、「ゆかりのある場所。長崎の方々が父のことを誇りに思ってくれているのが、うれしかった」と父の偉大さを改めて実感した。
国内だけでなく、これまでに海外を含め500回以上のライブを行い、延べ40万人以上を動員。ライブ会場では手拍子で観客が楽曲に参加してスタンディングオベーションが起こる。
今後についての抱負は。
「クラシックでもロックでもないTSUKEMENというジャンルを確立させたい」(TAIRIKU)。
「海外のジャズピアニストともセッションして成長していければ。みんなを熱狂させたい」(SUGURU)。
「ジェイク・シマブクロさん(ハワイ出身のウクレレ奏者)と共演したい。もっと海外で活躍したいですね」(KENTA)。
Wバイオリン&ピアノという唯一無二のスタイルを武器に進化を続けるTSUKEMEN。10周年を通過点として現状に満足せず、世界的なインスト・ユニットを目指してさらに羽ばたいていく。
◆TAIRIKU(たいりく) 1984年8月11日、長野県出身。34歳。4歳からバイオリンを始め、2010年3月に桐朋学園大学音楽学部大学院を修了。父はさだまさし。趣味は将棋。職域団体戦の出場を目指している。
◆SUGURU(すぐる) 1985年12月8日、広島県出身。32歳。4歳からピアノを始め、2010年3月に桐朋学園大学音楽学部研究生を修了。趣味はランニング。ツアー先で走るのが楽しみで、マラソン大会出場を目指している。
◆KENTA(けんた) 1984年10月24日、熊本県出身。34歳。5歳からバイオリンを始め、2007年3月、東京音楽大学を卒業。趣味は筋トレ。トレーニングにより5キロ増量。ステージ上で存在感がありながら、柔軟に動ける肉体を目指している。
◆TSUKEMEN(つけめん) Wバイオリン(TAIRIKU&KENTA)とピアノ(SUGURU)による3人組インストルメンタル・ユニット。いずれも音楽大学出身で、それぞれが作曲を手掛けている。2008年12月、東京・サントリーホールで初コンサート。10年3月にアルバム「BASARA」でCDデビュー。現在までにアルバム9枚、マキシシングル1枚をリリース。18年4月からJ:COMで冠番組「TSUKEMEN TV」を放送中。