ファインダーから「違和感を感じる力」で見た巨人・内海の昨季との投球フォームの違い

内海の投球フォーム。左が今年7月、右が昨年4月。今年のフォームは下半身と上半身がしっかりと連動しているため、リリースポイントが前になっている
内海の投球フォーム。左が今年7月、右が昨年4月。今年のフォームは下半身と上半身がしっかりと連動しているため、リリースポイントが前になっている
東京ドームでのヒーローインタビューを終え、カメラのレンズの前に設置された透明のアクリル板に左手でサインする内海
東京ドームでのヒーローインタビューを終え、カメラのレンズの前に設置された透明のアクリル板に左手でサインする内海
6月10日の西武戦で7回2失点の粘投、サヨナラ打を放った大城の背中に飛び乗り笑顔を見せる内海
6月10日の西武戦で7回2失点の粘投、サヨナラ打を放った大城の背中に飛び乗り笑顔を見せる内海

 カメラマンにとって重要なのは、違和感を感じる力だと思う。撮影していて何かが心に引っかかったとき、今までと何かが違うと感じたとき、それについて深く考え、写真を見直すことが大事だ。そうすることで、被写体へのアプローチが変わってくる。そして、一見何気ない写真が意味を持つこともある。

 例えば、巨人の内海哲也(36)。彼は利き手の左手で字を書く。でも、食べる時は右手だ。

 自動販売機、ドアノブ、パソコンのキーボード。あらゆるものが大多数の右利き用に作られている。だから、生活していく上で不便を感じないように、左利きの子どもは右手も使えるように親から矯正を受けることがある。

 それは親の深い愛情の形の一つだ。(もちろん、あるがままでいいと矯正させないのも愛情の形の一つ)。でも、女手一つで3人の子どもを育ててきた母・広子さんには、内海に右手で文字を書く練習をさせる時間を作ってあげることができなかった。せめて食べることだけでも。母の精一杯の気持ちが、いまの内海を作った。

 そう伝えると、内海は恥ずかしそうに笑い、照れ隠しでこう言った。「箸も左手で練習させて欲しかったよ。そしたら指先が器用になって、もっとすごい変化球を投げられたのに」

 確かにもしそうだったなら、キレのある多彩なボールを器用に操れたかもしれない。面白いように三振がとれていたかもしれない。だけど、丁寧で粘り強い投球で人の心をつかむ「内海哲也」は、きっとここにはいなかった。

 内海よりすごいボールを投げる投手はいるけど、内海のような投手は他にはいない。超一流のボールがないからこそ、ストライクゾーンをめいっぱい使う。140キロ前後のストレートで強打者の内角を果敢にえぐる。そのコントロールと、チームメートを奮い立たせるその勇気が「内海哲也」の最大の魅力であり、最大の武器なのだと思う。

 昨季は2勝に終わり、春季キャンプは、新人時代以来となる2軍からのスタートとなった。そこから這い上がり、5月10日に本拠地で行われた阪神戦で306日ぶりに勝利を挙げ、先発ローテーションの一角に食い込んだものの、シーズンの後半になるにつれて投球が不安定に。10月2日現在の成績は5勝5敗、防御率4・17。数字だけを見ると復活とは言えないかもしれない。だが、背番号26の投球を支えてきた勇気は、確実に戻りつつある。

 近年は変化球でかわそうとしすぎて崩れる印象が強かったが、今はストレートが最も多く、全投球の3割超を占める。カウントを稼ぐだけではなく、追い込んでからも捕手のサインに首を振り、真っ直ぐを投げ込むシーンがよく見られた。「今までだったら(バットで)捉えられていたようなストレートが今年はファウルになったりして。それでどんどん攻めていけるようになった」と内海は言う。相手打者にストレートを意識させられるから、その後に投げるスライダーやチェンジアップがより効果的になる。

 今年の内海を撮影すると、リリースの時に左腕で顔が隠れることが多くなった。昨年との投球フォームの違いを写真で比べてみた。

 わずかにリリースポイントが前になっているのがわかる。注目すべきは軸足である左足の使い方。ユニホームのパンツの右足付け根のところにくっきりと線ができるほど、軸足を体の中心に向かって押し込むようにして左腰を内側に入れている。そうすると、左肩が自然と前に出て打者に近い位置でボールを放すことができる。いわゆる球持ちのいい状態で投げられているから、打者は球速以上に速く感じる。

 昨年8月の終わりにファームに降格してから小谷正勝2軍投手コーチ(73、当時は巡回投手コーチ)のアドバイスを受け、下半身と上半身を連動させることをテーマに練習に取り組んできた。三塁や遊撃の位置でゴロを捕球して一塁に送球するトレーニングを繰り返し、下半身の効果的な使い方や体重移動の感覚を体に覚えさせた。

 今季終盤は疲労などのコンディションによって投球にばらつきがあったものの、その効果がようやく出始めた。入団当時から内海を知り、昨オフの練習でもキャッチボールなどを見てきた高橋信夫ブルペン捕手(46)は証言する。「内海のボールは若いころに戻ってきている」

 2003年のドラフトで入団した同期メンバーは西村健太朗(33)以外、全員引退した。内海自身も36歳。年齢を重ねれば肉体は変化する。でも、変わらないものなんかない。すべてに恵まれている人も、ほとんどいないだろう。変化やハンデという壁にぶつかったときにどう乗り越えるか。プロ野球選手に限らず、それが生き残っていくためのカギ。不器用な左手で独自の投球スタイルを確立した背番号26には、その強さがきっとある。

 試合日程に余裕が生まれている現在は登板機会がないため、出場選手登録を抹消されているが、チームがクライマックスシリーズ(CS)出場を決めた際の貴重な先発要員として2軍に帯同しながら汗を流している。「内海はもう終わった、と思っている人もいるかもしれない。でも、なんとか復活できるように頑張りたい」

 内海はもう終わってしまったのだろうか。その答えはCSか来季に持ち越しになりそうだ。でも、モノにしつつある新フォーム。そして、いつも変わらず早い時間に練習場に現れ、年下の選手たちと笑いながら一緒に鍛錬に励んでいる。そんな左腕に対して「終わった」なんていう言葉には違和感しか感じない。

 ひたむきで、高校球児みたいに真っ直ぐな背番号26には、代わりに北野武監督の映画「キッズ・リターン」のラストシーンの言葉をおくりたい。馬鹿野郎、まだ始まっちゃいねえよ。(記者コラム・矢口 亨)

内海の投球フォーム。左が今年7月、右が昨年4月。今年のフォームは下半身と上半身がしっかりと連動しているため、リリースポイントが前になっている
東京ドームでのヒーローインタビューを終え、カメラのレンズの前に設置された透明のアクリル板に左手でサインする内海
6月10日の西武戦で7回2失点の粘投、サヨナラ打を放った大城の背中に飛び乗り笑顔を見せる内海
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