「客寄せになってもいい」元G盗塁王・藤村大介が描く夢の続き

ジャイアンツアカデミーのコーチとして子供たちに熱心な指導をする藤村大介さん
ジャイアンツアカデミーのコーチとして子供たちに熱心な指導をする藤村大介さん

 日焼けをした顔に充実感がにじんでいた。7月末のこと。昨年限りで現役を引退した巨人・藤村大介さんのもとを訪ねた。現在は子供たちを対象とした野球スクール「ジャイアンツアカデミー」のコーチとして、第2の野球人生を歩んでいる。出迎えてくれた笑顔に私は11年前、藤村さんと初めて会ったときのことを思い出した。

 2007年10月3日。巨人が5年ぶりに優勝を決めた翌日だった。高校生ドラフトが行われ、巨人は1巡目で熊本工の藤村さんを指名。記者会見では緊張していたが、写真撮影では、オレンジタオルを両手で広げ、晴れ晴れとした表情で未来を見つめていた。

 夏の大会を終えても練習をしていたのだろう。日焼けの跡はしっかりと残っていた。会議当日、熊本工で待機していた私は藤村さんから小さい頃からの「夢」を聞いた。小学校の卒業文集にも書いていたが、巨人にドラフト1位で入ること。その巨人で優勝すること。盗塁王と本塁打王を獲得すること、だった。

 28盗塁で盗塁王を獲得した2011年や日本一に貢献した2012年も近くで見て、取材する機会に恵まれた。そして、引退した昨年11月。雑誌「月刊ジャイアンツ」のインタビューで藤村さんに指名された10年前を振り返ってもらった。

 「本当にドラフト1位で巨人に入って、盗塁王も獲れた。本塁打王は無理な話ですけど、日本一も経験させてもらった。多くの夢がかなったんです」

 まだできる、という惜しむ声もあった。だが、引退を決めたのも、他球団でユニホームを着ることが想像できなかったから。球団職員の道を選んだのも今度は選手の立場ではなく、小さい頃から好きだった巨人軍の一員として、尽力したい思いがあったからだった。

 巨人や野球への思いは、少年時代から変わっていない。ユニホームを脱いでも夢を与えることはできる。ジャイアンツアカデミーでは平日夕方に都内で指導している他、巨人軍が取り組んでいる学校の体育の授業「ベースボール型授業」では投げ方、打ち方などの基本動作を教えに行っている。生徒の中には野球そのものを全く知らない子もいる。

 「子供に教えるって、難しいですが、とても面白いですよ。子供はかみ砕いて説明しないと理解をしてくれないので、よりわかりやすく簡潔に話をしています。小さい学年だと、すぐに砂をいじっちゃったり、あくびをしたりします。『腰をまわす』とか『体重移動する』とかわからないので、投げるときに『クルッ』とか、言い方を変えて話をしていますし、伝え方、言葉力が身についた気がします。緊張感は選手時代と比べればないですが、充実しています」

 成長の早い子供たちが、野球をうまくなっていく姿を見るのがうれしい。この中から中学、高校と野球を続けていってくれたらもっとうれしい。そう願っている。

 ただ、危惧している部分もある。

 「自分なりに勉強したのが、子供たちの野球に対する熱が冷めている感じがすることです。将来なりたいスポーツ選手の職業は野球ではなく、サッカーが多いということも聞きます。野球人気をどうにかしたいですね。僕が客寄せになってでもいい。なので、球団に僕でよければ、どんどん使ってもらえたらいいなと思っています」

 藤村さんは現役選手時代とは別の視点で自分の「責任」を持てるようになっていた。子供たちに野球を教える上で、言葉の選択、接する態度で相手の興味、成長は変わってくる。その言動が子供たちにとって重要になる。芽生えた責任感は重く、同時に藤村さんのやりがいにつながっているのだと思う。

 「まだまだ課題もあります。帰りの電車で『こういう言い方をしてしまったけど、もっと、こうした方が子供たちはわかってくれたかな』とか思います。突き詰めて考えて、子供たちをよりよく導いてあげたいと思います」

 指導をしていた東京・後楽公園少年野球場から少し横に目を向けると、東京ドームの屋根が見えた。藤村さんと触れ合った少年の中から、プロ野球選手、それも巨人の選手が誕生するのが、究極の夢なのかもしれない。大歓声を浴びたかつての本拠地のすぐ近くで、元盗塁王は野球の裾野を広げるという新たな夢へ向け、ひたむきに汗を流している。(記者コラム・楢崎 豊)

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