渡部香生子 “ガラスの天才”はもういない

女子200M平泳ぎで金メダルの渡部香生子(右)と銅メダルの青木玲緒樹
女子200M平泳ぎで金メダルの渡部香生子(右)と銅メダルの青木玲緒樹

◆ジャカルタ・アジア大会(20日)

 競泳の女子200メートル平泳ぎで、渡部香生子(21)=早大=が復活の連覇を果たした。150メートルまで3番手だったが、ラスト50メートルの大逆転劇だった。準決勝敗退に終わったリオ五輪後は低迷し、代表落ちの悔しさも味わった天才スイマーが、大舞台で再び輝きを放った。

 「自分が主役だと思ってレースをしよう」。プールに向かう直前、渡部はそう声をかけられた。声の主は日本代表の奥野景介ヘッドコーチだ。普段は早大の総監督として渡部を指導している。

 主役。一時期、確かに渡部香生子は水泳界の主役だった。14年の仁川アジア大会では金2個、銀3個。15年の世界選手権でも200平を制し、早々にリオ五輪代表の座を決めた。今の池江璃花子を思わせる、怖いものなしの快進撃だった。

 しかし、2度目の五輪を前に自分を見失った。「メダルをとりたいという目標はあったけど、自信がなくて。この私に本当にそんなことができるのか、と、そういうことばかり考えてしまっていた」。リオの200平は13位。19歳の夏は失意とともに終わった。

 もう水泳辞めようかな…。そんな思いが心に巣くったまま、五輪後、変化を求めて水泳部の練習に加わることにした。

 リオ五輪前は早大に籍を置いてはいたが、基本的に専属コーチとマンツーマンで練習を積んでおり、水泳部員とは一定の距離があった。思うように泳げないいらだちを隠せず、実際にほかの部員の前で「辞めようかな」と口走ることもあった。特に結果が出ないレース後などは容易に話しかけづらい空気をまとっていた。

 チームメートとの練習や、団体行動、全てが新鮮だった。3年生以上の部員には部の運営という重要な仕事がある。渡部自身、ミーティングで運営方針について意見を求められることもある。「足を引っ張らないように、と思っているんですけど…。部の運営とかに全く関わったことがなかったので、すごく勉強させてもらった。知らなかった世界を知ることができてよかった」

 “部活”の日常を通し、周囲との距離は少しずつ縮まった。「香生子さんは変わった。話しかけにくい、とか全然なくなりました」と後輩たちもうれしそうに言う。17年は右足首の故障の影響もあって代表落ちも経験したが、インカレで活躍するなど泳ぐ喜びを取り戻した。

 奥野ヘッドコーチも「顔がよくなった。すごく柔らかくなったよね」と変化を認めている。「彼女は天才」と才能を絶賛しながら、ちょっとした礼儀や日常での振る舞いといった面も根気強く指導してきた。だから、内面の成長がうれしくて仕方ないのだ。

 渡部はレース後、「勝ちたいという気持ちをすごく出せました」と、奥野コーチに報告した。「つらいこと、うれしいことがたくさんあったけど、一歩一歩成長できている」。ガラス細工のように繊細だった「天才少女」の面影は今は遠くなり、成熟期を迎えようとするスイマーの姿がそこにあった。(太田 倫)

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