撮影していると声を出して笑ってしまう時がある…巨人・坂本勇は現代のリアルヒーロー 

6月22日のヤクルト戦の8回、2ランホームランを放ちバットを放り投げて喜ぶ坂本
6月22日のヤクルト戦の8回、2ランホームランを放ちバットを放り投げて喜ぶ坂本
6月22日のヤクルト戦での坂本の構え。写真左は8回、右は3回。どちらもチャンスでの打席だったが、ホームランを放った8回はバットを人差し指2本ほど短く持っている。写真下はネクストバッターズサークルのホームベースよりで打席を待つ坂本
6月22日のヤクルト戦での坂本の構え。写真左は8回、右は3回。どちらもチャンスでの打席だったが、ホームランを放った8回はバットを人差し指2本ほど短く持っている。写真下はネクストバッターズサークルのホームベースよりで打席を待つ坂本

 本当に天才だ、と思う。

 インターネットスラングを考える人たちのことだ。笑うは「w」。それは、なんとなくわかる。でも、さらに「草生えた」に進化する。初見で理解するのは、もはや無理。他にも、胸熱(胸が熱い)、メシウマ(他人の不幸で飯が美味い)、亀レス(遅い返信)、NKT(長く苦しい戦いだった)…。調べてみるとユーモアに溢れる言葉が並ぶ。その想像力(創造力)は、日本が世界に誇れるものの一つだと思う。それだけにネット上での誹謗中傷は、より辛辣で残酷になるのだけれど。

 最近では、ネットの掲示板やツイッターなどのSNSで「本田△」が頻出した。意味と進化の様子はこうなる。本田さんかっこいい→本田さんかっけえ→本田三角形→本田△。以前から使われていたスラングだが、セネガル戦で同点ゴールを決めたサッカー日本代表の本田圭佑(32)の評価が上昇したことによって、再び脚光を浴びた。

 サッカーの話題一色の日本列島で、世の風潮から最も無縁の生活を送っている職業の一つが、スポーツ報知のジャイアンツ担当カメラマンだろう。(精神的な距離で)ロシアから世界一番遠い水道橋に通い、FIFAアンセムではなく「闘魂こめて」を聞く毎日。そんな生活のなかで、かなり強引なぶっこみだと分かりつつ、ぼくはこう思う。△とは坂本勇人(29)であり、プロフェッショナルとは「ハヤトサカモト」だお(だよ)、と。

 そのプレーは、ブラインドタッチのようだ。

 キーボードの文字列を目で確認することなく、指先で液晶画面に正確な文章を紡いでいくように、坂本は試合の状況や自分のコンディションを考えた上で、技術の引き出しから瞬時に最適なものを組み合わせ、対応しているように見える。

 例えば、6月22日のヤクルト戦(東京ドーム)。1点差に迫られた直後の8回1死二塁だった。坂本は通常より人差し指2本分ほどバットを短く持って構え、それまでの打席よりも左足の上げ幅を大きくした。どんなボールにも対応した上で、強い打球を飛ばそうという選択だったのだろう。結果は2ランホームラン。近藤が投じた見逃せばボールの内角高めのストレートを左翼席上段にぶち込み、試合を決めた。坂本だから打てたというような高等技術だが「感覚でやってるから覚えてないよ」と本人は笑う。

 高度な感覚は、貪欲な姿勢から培われた。うまくなりたい。そう強く思えば、自分のテーマや疑問は自然と湧いてくる。気になることがあれば、当たり前のように先輩に質問した。

 5年前のグアム自主トレでは、10歳以上年上の阿部慎之助(39)に逆方向へ強い打球を飛ばす秘訣を聞いた。インパクトを10センチ後ろへずらすのだ、というアドバイスに「阿部さんの言うことはレベルが高い」と最初は頭を抱えた。

 それでも、確かな技術を身につけることが飛躍につながると信じた。それから3年間の打率は2割8分を下回ったが、目先の成績に惑わされることなく、教えられたことを少しずつ自分のものにした。2016年には首位打者を獲得。今季10本のホームランのうち、半分の5本がセンターから右方向への打球だ。

 試合の中でもこだわりがある。東京ドームのネクストバッターズサークル。多くの打者がベンチ寄りに立つ中で、坂本は本塁寄りの位置で打席を待つ。わずか1メートルほどの違いだが、相手投手からの距離も角度バッターボックスに近い分、球威や球筋をよく観察できる。

 坂本の7月3日現在の打撃成績は打率3割3分1厘、10本塁打、打点49、OPS.920。特に打点では、出場全試合数の約8割が1番で起用されているのに関わらず、リーグ2位に食い込む。勝負の前の準備を妥協なく行うからチャンスで集中力が増し、感覚が研ぎ澄まされる。

 阿部からキャプテンを引き継いで4年目。強烈なリーダーシップを発揮する今季は、後輩の意見を聞き、必要と感じれば人を集める。スタメンを外れた選手にはさりげなく声をかけ、波に乗り切れない投手には、打者目線から打ちにくいボールを助言した。劣勢では、自分に打席が回る可能性が低い打順でもヘルメットをかぶって準備し、声を出し続けている。

 G党の大半が、成績を含めて今のチームにどこかしらの不満を抱えているだろう。でも、よく見ればベンチの最前列に立って声を出す選手が少しずづ増えているのに気づくはず。背中で示す坂本の思いは確実に浸透してきている。

 本当にすごい。

 野球はチームスポーツであり、プロの世界は組織で動いている。一般企業に置き換えれば、選手を評価し起用を決める監督が社長、各部門のコーチが部長などの上司だ。その中で、社員に当たる一選手がチームの雰囲気を変える。それは、どれほど難しいことだろう。

 100%でやらなくていい、世の中って7割ぐらいでやった方が会社ってまとまる。これはタレントのヒロミ(53)がテレビ番組で話していた言葉だ。頑張っても給料は上がらないし、そこまで頑張らなくていい。主張しても波風を立てるだけだ。それなら、何もしない方がいい。みんながみんな、そうではない。でも、そんな空気を感じることは、少なからずある。

 坂本は今の世の中ってそうなんだ、みたいな軽い雰囲気でグラウンドに現れ、でも誰よりも丁寧に練習し、全力でプレーする。チームメートに対して厳しく接することもある。それでも慕われているのは、プロフェッショナルな姿勢を貫いた上で、笑顔とユーモアを忘れないからだろう。

 5月の阪神戦でこんなことがあった。二塁打を放った際、三塁でストップした一塁走者・田口麗斗(22)に向かって「ちゃんと走れよ」と大声ですごんでみせた。田口が本塁に突っ込んでいたら、おそらくアウトだった。坂本も本気で怒っていたわけではない。それでも、チーム全体に一つでも先の塁を狙う攻撃的な姿勢の大切さを伝えたかった。その時も最後に田口に向かって笑いかけた。そうすれば、相手は嫌な感情を持つことなく大切なことを素直に受け取れる。

 それでも、首位・広島との差はなかなか縮まらない。背中で示しても伝わらないときもある。悔しさでノック中に大声で叫んだこともあった。でも、背番号6はいつの間にか笑顔になっている。悪いことを引きずっていてもいいことなんかない。そう思って、以前は無理してでも笑った。それが自然にできるくらいの強さを身につけた。

 一塁から激走してホームインしたときは子どもがテストで満点を取ったような顔でベンチに戻ってくる。痛くても笑顔で試合に出続ける。そんななかでも目の覚めるようなホームランをかっ飛ばし、バットを放り投げる。

 坂本を撮影していると、ファインダーを覗きながら声を出して笑ってしまう時がある。そして、自分も頑張ろうと思える。ネットの世界にはクスリとしてしまうユーモアはあるけど、こんな爽快な気持ちになることはない。

 ファンに夢を与えるのがプロ、と人は言う。それも一つの答え。でも、大人になった今は分かる。生きるのに必要なのは夢よりも、現実と向き合い、前に進む強さだ。坂本にはそれを人に与えられる魅力がある。

 彼は長嶋茂雄のような国民的スターでも松井秀喜のように年間50本のホームランを打つ選手でもない。それでも、変革を迫られるチームの中で、笑顔を絶やさずに戦い続ける坂本は、現代のリアルヒーローである。(記者コラム・矢口 亨)

6月22日のヤクルト戦の8回、2ランホームランを放ちバットを放り投げて喜ぶ坂本
6月22日のヤクルト戦での坂本の構え。写真左は8回、右は3回。どちらもチャンスでの打席だったが、ホームランを放った8回はバットを人差し指2本ほど短く持っている。写真下はネクストバッターズサークルのホームベースよりで打席を待つ坂本
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