慶応、9年ぶり聖地に響く神曲「烈火」ヒットまで8年 作曲者が誕生秘話明かす

2016年夏の神奈川大会で決勝進出を決めた慶応ナインと、熱狂するスタンドの生徒たち
2016年夏の神奈川大会で決勝進出を決めた慶応ナインと、熱狂するスタンドの生徒たち
慶応の応援曲「烈火」の作曲者・中谷寛也弁護士。マルチな才能を発揮している
慶応の応援曲「烈火」の作曲者・中谷寛也弁護士。マルチな才能を発揮している

 熱戦が展開されるセンバツ。第6日には慶応(神奈川)が9年ぶりに春の甲子園に登場し、彦根東(滋賀)との“進学校対決”に臨む。慶応のオリジナル応援曲「烈火」は高校野球ブラバン愛好家の中でも「神曲」として強い人気を誇り、アルプスで鳴り響く瞬間を待ち望むファンも多い。だが、ブレイクするまでは実に8年の歳月を要したという。同曲の作曲者で、弁護士の中谷寛也さん(39)に、その裏側を直撃した。(構成・加藤 弘士)

 勇ましい、心が高揚するメロディー。慶応オリジナルの応援歌「烈火」は同校OBの枠を超え、広く野球ファンのハートを熱くする。中谷さんはちょうど10年前、制作当時をこう回想する。

 「08年に塾高(慶応高の略称)がセンバツに出ることになったんです。左腕・田村圭と右腕・只野尚彦のWエースで、主将は山崎錬の時でした。そこで塾高の応援指導部と吹奏楽部の3年生から『応援曲を作って下さい』と依頼を受けまして。現役の高校生から依頼されるとは、うれしさと同時に、塾高ではなく志木高(慶応志木の略称)OBの自分が作ってよいものかと思いました」

 リクエストは「アフリカンシンフォニーみたいな、短調でカッコいい曲を」というもの。応援指導部の主将だった小山太輝さんらが作詞を担当し、センバツに間に合わせるために10日間で完成したが、周知などの準備が足りずに春の甲子園では演奏されなかった。チームも初戦で21世紀枠選出校の華陵(山口)に0―1で敗退してしまった。

 しかし、慶応ナインはセンバツの悔しさを晴らそうと奮起。その夏の北神奈川大会決勝では大田泰示(現日本ハム)を擁する東海大相模との延長13回にも及ぶ死闘を制し、46年ぶりの夏切符を獲得した。勢いのまま、慶応は甲子園で全国制覇した1916年以来、92年ぶりに「夏3勝」を挙げる。熱い夏、「烈火」は快進撃のBGMとなった。

 「新しい曲をデビューさせた時って、負けたらもう演奏されないかもしれないというのがやっぱりあるんですよ。自分はそれも当然かなと思っているんです。勝負事の中での応援歌ですから。でも『烈火』はたまたまデビューした年に甲子園でベスト8まで行った。それもあって使い続けてくれているのかとも思います」

 「烈火たまらん」と一部の高校野球ブラバンマニアがメロディーにときめいたが、広く一般層の人気を得るまでには至らなかった。

 「あんまり人気はなかったんです。鳴かず飛ばずで。『来年はなくなるかも』と毎年、不安でした(笑い)」

 大ブレイクするのは8年後。16年夏の神奈川大会がきっかけだ。慶応は準々決勝で東海大相模を11―2の8回コールドで撃破。準決勝では桐蔭学園を10―5で破った。決勝ではエース・藤平尚真(現楽天)を擁する横浜に3―9で敗退したが、「烈火」は満員の横浜スタジアムに鳴り響き、その模様がTVK(テレビ神奈川)やNHKの電波に乗った。SNSには称賛の声が相次いで投稿された。

 「そこで急に人気になっちゃったんですよね。やっぱり相模とか桐蔭とかすごいところを破ったのが大きかったと思います。目立ったんでしょうね」

 完成からヒットまで8年を要するとは、苦労人の演歌歌手バリの寝かせっぷりだ。攻撃すること火のごとし―。「烈火」が奏でられる中、聖地でどのような攻撃を見せるのか。慶応ナインの戦いざまに注目が集まる。

 ◆「スト2」ヒントに慶大の新定番曲が誕生

 中谷さんは慶応志木の卒業生。97年に慶大に入学し、応援指導部に入部した時、野球部の主将は高橋由伸(現巨人監督)だった。サックス奏者の傍ら、作曲者としても非凡な才能を発揮。1年の冬には「アラビアンコネクション」、3年の冬には「シリウス」「タイタン」といった今でも慶大のスタンダードナンバーとなる応援曲を作り上げた。中でも攻撃開始時に奏でられる「シリウス」はスタイリッシュな曲調で、多くの野球ファンに愛される。

 「スーパーファミコンのソフト『ストリートファイター2』のガイル少佐が登場する音楽を『かっこいいな』と思ってピアノで弾いていたら、思いついたんです。10分ぐらいでできました(笑い)。『シリウス』は8小節の単純な短い曲ですが、応援の最初だけでなく他の応援曲から戻る時にも演奏されていますね」

 「シリウス」は「白い光を放つ星=白星」の意味を込めて名付けられた。今春センバツでは慶応のほか、三重や静岡のブラバンも演奏する。自身の曲が甲子園で奏でられるのは、どんな気分なのだろうか。

 「こっ恥ずかしいですね(笑い)。うれしさ半分、恥ずかしさ半分です。以前、静岡が甲子園に出た時、たまたまNHKをつけたら『シリウス』が流れて。こそばゆい気持ちになりました」

 慶応の初戦・彦根東戦では、吹奏楽部からOBへ協力要請があったことを受け、トランペット持参でアルプス席に馳(は)せ参じる。

 「あくまで主役は選手。僕らは裏方なのですが、勝つための空気を作れたらいいなと思っています。曲で貢献したいですよね」

 ◆中谷 寛也(なかたに・ひろや)1978年10月6日、東京・目黒区生まれ。39歳。慶応中等部、慶応志木を経て、慶大法学部法律学科に入学。応援指導部では主にサックスを演奏する傍ら、4年時には指揮者を担当。02年に司法試験合格。04年に司法研修所修了、弁護士登録。10年に「桑田・中谷法律事務所」を開設。特に著作権を得意分野とする。野球応援では社会人・JX―ENEOSの演奏にも参加。同社の応援曲「SUNRISE ENEOS」も作曲している。

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