大谷の入団交渉に成功した日本ハム・大渕スカウト部長が球児にエール「高校野球をやりきって」

花巻東時代の大谷翔平投手
花巻東時代の大谷翔平投手

 投打二刀流で甲子園でも活躍した大谷翔平投手(23)が今季、日本ハムから米エンゼルス入り。花巻東時代にメジャー挑戦を表明していた大谷を入団交渉で翻意させたことでも知られる日本ハム・大渕隆スカウト部長(48)がこのほど、スポーツ報知のインタビューに応じた。選手としてのプロ経験がなく、元高校教員という異色の敏腕スカウトは、高校球児に対して「プロに入る入らないではなく、高校野球をやりきってほしい」と異例のエールを送った。(聞き手・片岡 泰彦)

 ―06年に高校教員からプロ野球のスカウトに。どういう思いで転身したのか。

 「プロとアマの両方を見られて、どちらのことも理解できる立場になることによって、より野球界に貢献できるのではないか、という思いはありました。そのモデルはアイク生原さんなんですが」

 ―今年1月に行われたプロアマ合同の指導者講習会では、講師を務めた。

 「スカウトになる前、私は受講者として参加していました。プロアマの懸け橋的な存在になれれば、と思ってスカウトになったことを考えると、感慨深いものがありましたね」

 ―獲得に尽力した大谷が今季からメジャーに移籍。スカウトとして多くの選手を見てきた中で、プロ入り後に伸びる選手が持つ共通点はあるのか。

 「簡単に言えば、自分を持っている選手、ということになります。自分を信じ、信念を持ってやり遂げる。活躍するかどうかは、選手が持っている能力にもよりますが、そういう子は伸びます」

 ―「自分を持つ」とは?

 「プロに入団したら、誰もが不安になります。なぜなら、周りはみんな自分よりもすごい選手ですから。でも、自分を持っている選手は、自分のやり方をやり通すことができる。ああでもない、こうでもないと人目を気にして過ごすような選手は伸びません」

 ―大谷も入団当初に二刀流批判を受けたが、黙々と我が道を突き進んだ。

 「彼は、自分に与えられた時間や環境を全て野球のパフォーマンス向上につなげようとしていた。チームメートが遊びにいこうが全然関係ない。周囲の目を気にすることなく、淡々と自分の目標に向かって完遂する。その姿勢が素晴らしかった。そういう信念、明確な目標を持った選手は強いです」

 ―そういった部分を評価して指名選手を決めることは?

 「もちろんあります。例えば、今年3年目の平沼。彼は高校時代、投手でしたが、我々は打者として評価していました。野手としてゼロから取り組めるかどうかを判断をする際に、彼の弱音を吐かずに必ず最後までやりきるという能力が決め手になりました」

 ―平沼は昨季、2年目で1軍デビュー。順調に成長曲線を描いている。

 「これはプロうんぬん、ドラフトうんぬんを抜きにして、高校野球にも言えることだと思います。監督の指示に対し、ただ従うのではなく、自分なりに理解をし、その上で自分の定めた目標に向かって努力できる選手は伸びますね」

 ―日本ハムでは、新人に対して大渕スカウト部長が考案したさまざまな講義を行っている。そこでもそのような話はするのか。

 「オリエンテーションですね。彼らには『君たちには必ず引退する時が来る。その時に堂々とユニホームを脱げるようにやりきってくれ』と言ってます。ユニホームを脱いだ後に、誇れるような現役生活であってほしいということです」

 ―選手にその考え方は浸透しているのか。

 「響いている子と、そうでない子がいるというのが正直なところです。ただ、16年限りで現役を引退した荒張という選手は、自ら退団を申し出てきたんです。在籍7年間で1度も1軍に上がれなかったんですが、『本当にやりきりました。このチームでこれだけチャンスを与えてもらって、自分の力が全部分かりました』と言って。あれはうれしかったですね」

 ―「堂々とユニホームを脱いだ」と言える。

 「しかも、彼は野球をやりきった上で、消防士になりたいという次への意欲が湧いていた。理想的な退団の仕方だったと言えます。選手としての結果は出なかったけど、彼にとって、プロ野球で過ごした7年間というのは絶対にいい期間だったと思います。彼はその後、志望していた東京消防庁に合格しましたが、多分、面接などでは胸を張ってプロ時代の経験を話してくれたのではないでしょうか」

 ―プロ野球選手としての経験をその後にどうつなげていくかが大事だ。

 「プロで活躍できるのは本当に一握り。高卒でプロ入りした選手のうち、7割が1軍で活躍できないというデータもあります。現役引退後のことを考えると、プロ野球生活をステップアップにしたいんです。成績だけを見たら『1軍で活躍できなかった』という評価になってしまうけど、全身全霊をかけて野球をやりきったという思いがあれば、それは必ず本人の人生にプラスとなるはずです」

 ―それは高校生にも言えることだ。

 「高校野球の期間は、長くても2年半。燃え尽きるというか、やりきるにはちょうどいい長さだと思うんです。高校球児のみなさんにはそこに情熱を注ぎ込んで、やりきってもらい、次のステップにスタートしてもらいたいですね」

 ―「次のステップ」が野球でも構わないのか。

 「もちろん。やりきった上で、もっと野球がやりたいと思えば、続ければいいし、新たに音楽を始めるでもいい。海外に行き勉強するでもいい。中途半端にずるずる野球を続けるようなことはしてほしくないですね。そもそも、スポーツというのは、自分の人生を豊かにするツールでしかない。そのツールにしがみつくような考え方はちょっと違うんじゃないかなと思います」

 ◆大渕 隆(おおふち・たかし)1970年1月24日、新潟県生まれ。48歳。十日町高では2年秋の県大会優勝、北信越大会4強が最高成績で甲子園出場なし。1浪後早大に進学、4年秋に三塁手でベストナイン。日本IBMで6年間プレーする傍ら、米国やキューバで現地の野球を視察。2001年から新潟県立西川竹園高で教諭を務め、06年から日本ハムのスカウト。09年にスカウトディレクターとなり、17年から現職。

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