大林宣彦監督「がんごときじゃ死ねねえぞ」最新作「花筐/HANAGATAMI」公開中

笑顔で語る大林宣彦監督(カメラ・小泉 洋樹)
笑顔で語る大林宣彦監督(カメラ・小泉 洋樹)
映画「花筐」の一場面
映画「花筐」の一場面

 昨年8月にステージ4の肺がんで余命3か月の宣告を受けた大林宣彦監督(79)の最新作「花筐/HANAGATAMI」がこのほど公開された。現在の体調について「余命は未定になった。がん患者という自覚もない」と笑顔を見せ「死ぬのは怖くないけど、がんごときじゃ死ねねえぞ。体が映画を撮れと言っているのかな」と次回作へ強い意欲を見せた。

 余命宣告を受けたのは、昨年8月、クランクイン前日だった。その瞬間を「うれしかった」と、意外すぎる言葉で振り返った。「花筐」は檀一雄氏の短編小説を原作に、太平洋戦争前夜を生きる若者たちを描いた青春群像劇。大林監督は40年前に一度、脚本を完成させ末期の肺がんに侵されていた檀氏に映画化の許諾を得ていた。

 「クランクイン前日に肺がんを宣告されて、肺がんで亡くなった檀さんとつながった気がしたんです。『花筐』を撮れる資格をもらえたかなという感じがして、うれしくなりましたね。肩の力が抜けました。父親の世代の青春を描こうとしながら40年間も延ばしてきたのは、高度経済成長を楽しんできた僕たちに覚悟があるのか、おびえていたから。肺がんで覚悟が決まりました」

 撮影前日は「余命6か月」だったが、3日後に精密検査を受けると「余命3か月」と命が“半減”していた。

 「2日間撮影して、病院で、元気だから大丈夫だよって言ったら、2日で3か月も減っていて。『がんは倍々ゲームだから1日、1秒ごとに増えていく。あと何日もしたら、余命明日ってことになりますよ』と言われて。明日じゃ映画が完成しないので、一度東京に戻って、周りが治療法を探してくれました」

 妻でプロデューサーの恭子さん、長女らの尽力で「病人らしくない治療」を模索。遺伝子検査の結果、抗がん剤「イレッサ」が効果がありそうだと判明し、撮影を続けながら経口で服用した。

 「イレッサは飲める人が30%、効く人はその半分と聞いていたけど、途方もなく効きました。おかげさまで、今は余命未定なんです。なんで自分はこんなに効くのか聞いたら、がんになっても一切悩まず、肯定的に受け止めて一緒に生きていこうという楽観的な人は効きやすいみたい。点滴も打ってないし、自覚症状も味覚障害ぐらい。がん患者という自覚がないんです」

 自らを「根が丈夫で楽天家」と評する。余命宣告を受けても、今作が遺作になるかも、という不安は全くなかったという。

 「それを思っちゃいけない。死ぬつもりがなかったから。僕は戦争(時代)の子。戦争の時に殺されてるか、自決でもしていれば潔く終わってるけど、ここまで生きてる。だから、死ぬのは怖くないけど、がんごときじゃ死ねねえぞと。その気持ちが、がんに勝っちゃったんですね。体が映画を撮れと言ってるのかな」

 作品は佐賀・唐津が舞台。ただ、唐津の自然を静かに美しく―といった“ベテランらしい”作品ではない。強引に思えるほどデフォルメした映像や演技は、熱量にあふれ、挑戦的な作品になった。

 「余命宣告で、むしろ余裕ができちゃったのかも。山田洋次監督がこの映画を見て『僕も長生きしたくなった。まだまだ俺にもやれることがいっぱいあるなと思った』とおっしゃってくださったんです。クリエイターにとても元気が出る映画になったみたい。映画ってまだまだできることがたくさんあるぞ、それをやるのは何年生きても足りないぞ、という感じですね」

 最近、大林作品に影響を受けた「大林チルドレン」を自認する40~50代の映画監督が増えてきたという。

 「情報止まりの映画が多くなったけど、心ある若い作家はしっかり『物語』を作ろうとしているし、そういう機運も出てきた。戦争や平和に立ち向かって、映画を作ろうとしている。ただ、安心して俺は死んでもいいかなと思うと『がん君』が体にのさばるので、じいさんにもまだやることがあるぞ、というために映画を作ります」

 今作を機に、新たな商業映画のオファーも相次いでいるという。だが“永遠のアマチュア”は次回作も自主製作で臨む。自身の故郷・広島の原爆問題をテーマにするつもりだ。

 「広島の原爆とは、やはり向かい合わなきゃいけないだろうなと。大林さんの映画をもっと見たいから(商業映画で)やってくれませんかという声は来ているけど、何が何でも自主製作。アマチュアで作らないと、本当の平和を描く映画はできないだろうと思うからね」

 ◆ワンポイント
36歳の窪塚俊介、28歳の満島真之介、42歳の長塚圭史が17歳の同級生を演じることだけで完全に現実離れしているのだが、もうそんなことはどうでもいいと思わせる圧倒的な熱量がある。ヒロインの矢作穂香は近い将来ブレイクするかも。

 ◆大林 宣彦(おおばやし・のぶひこ)
1938年1月9日、広島・尾道市生まれ。79歳。CMディレクターを経て、77年「HOUSE」で監督デビュー。故郷を舞台にした「転校生」(82年)、「時をかける少女」(83年)、「さびしんぼう」(85年)は“尾道3部作”として人気を呼んだ。近年は「この空の花―長岡花火物語」「野のなななのか」など戦争を題材にした作品を手掛けている。04年に紫綬褒章、09年に旭日小綬章を受章。

 ◆花筐/HANAGATAMI あらすじ
 1941年の春、佐賀・唐津市の叔母の元に身を寄せることになった17歳の榊山俊彦(窪塚俊介)は、アポロ神のように雄々しい鵜飼、虚無僧のような吉良らの学友と「勇気を試す冒険」に興じる日々を過ごし、青春を謳歌(おうか)していた。しかし、そんな彼らの日常は、いつしか戦争の渦にのみ込まれていくことになる…。2時間49分。

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