林真理子さんが「西郷どん!」で描きたかった、西郷隆盛の斬新ラブストーリー

ドラマ原作を書き終えた林真理子さんは年末も新聞連載小説の執筆やNHK紅白歌合戦の審査員などで大忙し(カメラ・池内 雅彦)
ドラマ原作を書き終えた林真理子さんは年末も新聞連載小説の執筆やNHK紅白歌合戦の審査員などで大忙し(カメラ・池内 雅彦)
林真理子著「西郷どん!」(後編)
林真理子著「西郷どん!」(後編)
林真理子著「西郷どん!」(前編)
林真理子著「西郷どん!」(前編)

 直木賞作家・林真理子さん(63)の新作「西郷(せご)どん!」(角川書店、前後編各1836円)は、幕末の志士の中で、今も屈指の人気と尊敬を集める西郷隆盛(1828~77年)の生涯を描いた歴史小説。2018年のNHK大河ドラマ「西郷どん」(1月7日スタート、日曜・後8時)の原作だ。幕末から明治への変革期に清貧を貫きつつも大義を持って生き、新時代の幕開けとともに悲劇の死を遂げた西郷の生きざまは、現代を生きる私たちの心に突き刺さる。原作を読んでドラマを見れば、さらに味わい深いものとなるのは間違いない。(甲斐 毅彦)

 西郷隆盛を描いた歴史小説は、既に多数、世に出ている。代表的なものを挙げれば海音寺潮五郎の「西郷隆盛」、司馬遼太郎の「翔ぶが如く」…。「なんで今さら林真理子が書くんだ」という疑問は、愛する夫にまで持たれたそうだ。

 「割とそう思っている人は多いだろうなと思います。新たに書くからには、私の独自路線を作りつつ、しかも(ドラマの原作にふさわしい)標準的なレベルには達しないといけない。諸先輩方が書いたものと比べられるのは分かっているので、すごいプレッシャーでした。海音寺先生の作品は長くて難しく、登場人物も多く、読み通すのはなかなか大変。司馬先生の作品は(大久保利通とのダブル主人公なので)西郷だけという形では書かれていません。そして西郷を青年期から書いた小説は、これまでにあまりなかったんです」

 幕末という未曽有の変革期は、戦国時代と並んで日本の歴史小説の題材として人気だ。その反面、人物ごとの思想と実際の行動には矛盾もあり、複雑でもある。史実に忠実であろうとすればするほど袋小路に入ってしまうこともあるという。西郷という人物も例外ではないようだ。林さんは専門家からのレクチャーを受けながら、西郷が島流しされた奄美大島を始めとするゆかりの地を訪ね、西郷の足跡をたどってイメージを作り出していった。

 「幕末は好きだけど苦手な方は多いと思う。私もいわゆる歴史オタクではないし、実はそんなに得意ではないです。複雑怪奇ですから。徳川幕府、尊皇攘夷(じょうい)、倒幕派…と勢力が入り乱れ、言行が一致していなかったりしますし…。専門家に聞きながら一つ一つ糸をほぐすように分かりやすい状態にしました。後半(新政府軍と旧幕府軍が戦った戊辰=ぼしん=戦争)は西郷と(15代将軍)徳川慶喜との1対1の戦いだということが分かってきたんですが『正妻 慶喜と美賀子』(2013年出版)で慶喜の側からも書いたからこそ、西郷も書けたのだと思います」

 西郷は薩摩藩の下級武士として清貧な家庭に育ち、尊攘運動で活躍。薩長連合を結んで、戊辰戦争の参謀を務め、功罪ともに明治維新の原動力となった。その器は大きいが、今で言えばテロに当たる行為もあり、美談ばかりではない。調べれば人間くさいところも出てくる。林さんが、3度の結婚を経験した西郷の女性観に注目したのは、この作品の特筆すべき点だろう。奄美大島で出会い、再婚相手となった妻・愛加那とのラブストーリーは従来の西郷像を知る人にとっても斬新なはずだ。当時の日本でも特に男尊女卑が色濃かった薩摩藩にあって、西郷にはフェミニスト的な感覚があったようだ。

 「当時の薩摩の男ではまず考えられないことですが、西郷は妻が作ったカボチャの煮付けを『大層うまくこさえもしたなあ』と人前で褒めたりするわけです。(ドラマの時代考証を担当した)歴史学者の磯田道史先生(47)は、西郷をどのような形にでも同化できるという意味で『餅のような人』と例えています。固定観念にもとらわれない人だったのかもしれません」

 西郷は、後に自由民権運動の中心となった板垣退助とともに「征韓論」を主唱した人物としてこれまで伝えられてきた。当時の朝鮮の鎖国排外政策を武力で打破し、国交を開かせようという主張だが、林さんは西郷がその強硬派だったとの説を誤解とみる。話し合いの使者として朝鮮に派遣されることを希望してはいるが、積極的な武力制圧を主張している史料は探しても見当たらない。

 「欧米列強に立ち向かうためには東アジアが一致して協力しなくてはいけない、というのが西郷の考え方だったと思うんです。自分たちが彼らに教えてあげようという、ちょっと上から目線ではあったと思いますが。西郷の死後、日本は清国、ロシアとの戦争に勝って韓国を統治するわけですが、彼がもうちょっと長生きしていれば、今のようにアジアの人たちに日本が嫌われるようなことはなかったかもしれません」

 2018年は明治元年から数えて150年となる節目。中園ミホ氏(58)が脚本を担当する大河ドラマでの西郷役は俳優・鈴木亮平(34)が演じる。

 「中園さんは『すごくしっかりした原作だから自由に羽ばたける』とおっしゃってくださいました。キャストも一流の俳優さんばかりですし、台本を見せていただきましたが、とても面白いです。オーソドックスに書いた私の小説が、どんなドラマになるのか。私も楽しみにしています」

 ◆林 真理子(はやし・まりこ)1954年4月1日、山梨県山梨市生まれ。63歳。日大芸術学部卒業後、コピーライターとして活躍。82年にエッセー集「ルンルンを買っておうちに帰ろう」でデビュー。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞、95年「白蓮れんれん」で柴田錬三郎賞、98年「みんなの秘密」で吉川英治文学賞、2013年「アスクレピオスの愛人」で島清恋愛文学賞。同年の新書「野心のすすめ」がベストセラーに。そのほか「正妻 慶喜と美賀子」「我らがパラダイス」など多数。

ドラマ原作を書き終えた林真理子さんは年末も新聞連載小説の執筆やNHK紅白歌合戦の審査員などで大忙し(カメラ・池内 雅彦)
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