【ヒルマニア】視聴率27・8%…74年秋、王貞治とハンク・アーロンが繰り広げた“世紀の本塁打競争”
ニューヨーク・メッツが来日した1974年の日米野球。もう一つの呼び物が11月2日の全日本戦(後楽園球場)の試合前に行われたハンク・アーロン(アトランタ・ブレーブス)と王貞治の間で行われた世紀の本塁打競争だった。
この年、ベーブ・ルースが持っていた通算714本のメジャー記録を破ったアーロンはこの時点で733本。一方の王は2年連続三冠王に輝き、634本まで伸ばしていた。ルールはファウルを除きフェアの打球計20回(5回ずつで交代)で何本打つか-だった。メッツナインは三塁側ファウルゾーンの芝生に座ったり、腹ばいになったりしながら8ミリカメラを回すのんびりムードで、アーロンの勝利を確信していた。
このイベントが決まってから眠れない夜を過ごすことが多くなったという王は、アルコールを断って臨んだ。そして、もう一つ。「ファウルは打ち直し。すべて引っ張りだ」として、シーズン中と違ってつま先にかけた重心をかかとに移したという。
対して40歳のアーロン、バットを持たずに来日したためシーズン中に使っている35インチ(87・5センチ)、34オンス(963・6グラム)と、ほぼ同じだったメッツの主軸エド・クレインプールのバットを借りて、ホームランの確率の高い左翼ポール際を狙った。
王がシーズン中から“王の恋人”と言われた打撃投手の峰国安を選んだのに対し、アーロンは上手投げでボールが見極めやすいとしてジョー・ピグナトーノ打撃コーチを指名した。王は日頃から慣れ親しんだボールだけに、第1ラウンドはアーロンの2本に対して3本を放ってリードすると、がぜんアーロンの目が鋭くなってきた。
第2ラウンドは4本対3本。計6本で並んだ。当時日本ハムの張本勲は「ポイントがしっかりしている。それにあんな緩い球をスタンドに放り込むのはパワーの差なのだろう」とあきれていた。
9本対7本、アーロンのリードで迎えた最終ラウンドだった。王は1本目、2本目ともに右翼ポール付近にたたき込んだ。佐藤清次右翼線審は大きく手を回した。「ポールを巻いて入ったのは間違いない」と佐藤審判。ところが、アーロンが抗議するとメジャー15年目のベテラン、クリス・ペレクーダス球審は「ファウル」の判定となった。
結局、このラウンドに王は1本だけで、並ぶのが精いっぱい。アーロンが10本目を放ち、2スイングを残して10本対9本でアーロンの勝利。アーロンは王に駆け寄って抱き合うと、メッツ・ナインも駆け寄って王のすばらしさを改めて知った。
ペレクーダス審判は「ポールの真下から見上げたので、ポールの先端は見えない。だから主審である僕の権限でファウルにした」と審判控室で話していたという。
日本テレビ系列で録画中継ながら27・8%の高視聴率(関東地区)をマークしただけに、この審判団のジャッジは日本中の野球ファンにも論争を巻き起こしたとともに、メジャーの本塁打キングと互角に戦った王への人気がより高まっていく要因となった。
余談だが、ペレクーダス審判は1965年8月18日のカージナルス・ブレーブス戦、アーロンが左翼席に本塁打を放ったが、打席から左足が出ていたとして本塁打を取り消した事のある審判でもあった。
王は「ヒザがふるえるほどの緊張感だった。軽いスイングであれだけの距離がでる。さすがです。きのう(来日)のきょうでこの猛烈さ。本調子だったらどうなっているんでしょうね」と改めて40歳のすごさに脱帽。一方のアーロンも「昔のメル・オットー(一本足打法)を思わせる。あの小さな体(アーロン183センチ、82キロ、王177センチ、79キロ)でタイミングの取り方が素晴らしい。見ていて自分の若い時を思い出したよ」と初めて生で見る極東の本塁打王を激賞していた。
米国のCBSテレビが企画したこのイベント。米国にも流されたことで王の存在を米国のファンにも知らしめる形となった。この出演料はアーロンが5万ドル(当時のレートで約1500万円)、王が2万ドル(約600万円)だった。
日本のメディアが浮かれる中で、“記録の神様”として知られた報知新聞の宇佐美徹也記者は後に、「この年の公式戦の本塁打は20本対49本。2年後にユニホームを脱ぐベテランと絶頂期の王が互角。これが日米のレベルの差なのだろう」と冷静な判断を見せていたのが特筆される。
なお、本塁打競争の翌日、東京に滞在していたアーロンの下に、かつてプレーしたミルウォーキーに本拠を置くブルワーズへのトレードが伝えられることになる。
(蛭間 豊章=ベースボール・アナリスト)
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