高校野球の名将・木内幸男氏の最後の夏を忘れない…今でも、あの笑い声が耳に残っている
取手二高、常総学院高の監督として春1度、夏2度の甲子園大会優勝を成し遂げた木内幸男さん(享年89)が24日、茨城県取手市の病院で死去した。
9年経った今でも、あの笑い声が耳に残っている。
「ガハハハ。非常にいい野球人生で、幸せの一言だ。俺の時代は終わっだ。負げるどしたら今日だと思っでたんだよ。ガハハハ」(当時の音声メモそのまま)
試合後の一塁ベンチ裏で、時折、聞き取り不可能な茨城弁と豪快な笑い声が響いた。2011年7月27日。入社1年目の私は水戸市民球場で高校野球茨城大会の準決勝を取材していた。この夏を最後に勇退を表明していた常総学院・木内幸男監督(当時80)が目当て。当時、すでに腎臓がんを摘出するなど、満身創痍(そうい)の老体にムチ打って戦い続けていたが、試合は藤代に0―2の完封負けを喫し、55年間の監督生活に幕を閉じた。甲子園春夏通算3度の優勝を飾り、通算勝利数は40勝。茨城県勢の甲子園優勝はすべて木内氏が指揮を執ったものであり、いかに茨城県の高校野球に大きな影響を与えていたかがわかる。
木内氏を語るうえで忘れてはいけないワードがある。大胆な選手起用や戦法で相手の意表を突く「木内マジック」―。私も目の当たりにしたことがある。同25日の準々決勝・鹿島学園戦。7回2死一、三塁の場面で右投手に対して右打ちの三塁コーチャーをいきなり代打起用。その選手は「『えっ、僕ですか?』と正直、思いました」。コーチャーボックスから素振りを数回しただけで打席に入ったが、見事に右前適時打を放った。
思いもよらない采配を成功させ、球場は大盛り上がり。記者席から私も「おぉ、すごい。さすが『木内マジック』だ」と興奮していた記憶がある。だが、試合後に常総学院の選手に教えてもらったことがある。「監督の采配は『木内マジック』と言われてますけど、僕たち選手はそんな風に思ってないんです。監督は練習の時から選手のことをよく観察しています。試合では状況に応じて最善の策を考え抜いていますし、作戦が成功したのは決して『マジック』だからではなく、『必然』だと思っています」。先ほどの三塁コーチャーも練習試合から代打で成績を残していて試合中も守備の時はベンチ裏で出番に備えて素振りをしていた。さらに右投手の時に高打率をマークしており、適時打という好結果は様々な裏付けから導き出されていたのだった。
実は私は茨城県出身。高校野球をやっていたわけではないが、木内氏のファンであり、小学生の頃には甲子園まで常総学院の試合を応援に行ったこともあった。そんな憧れの存在の最後の夏を入社1年目の時に取材できたことは、本当に誇りであり、大きな財産である。
準決勝の試合終了直後、球場を大きな拍手が包んだ。もちろん、常総学院と藤代の両校ナインに送られたものであるが、私には木内氏へ送られた拍手のように聞こえた。球場に足を運んだ観客の多くが立ち上がり、木内氏が一礼してグラウンドを去るまで、その拍手は鳴りやまなかった。取材終了後、バスに向かう木内氏を100人を超えるファンが囲んだ。「木内さん、ありがとう」―。名将は別れを惜しむ人々の声に静かにうなずき、球場を後にした。木内氏の最後の試合を取材した記者として、私はその姿を決して忘れることはないだろう。
ご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます。(記者コラム・相川 和寛)
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