阪神ドラフト1位・佐藤輝明の軌跡<5> 「恋をした」近大・田中監督がワンスイングで一目ぼれ

小学校の卒業文集。「将来はプロ野球選手になろうと思います」と記した夢をかなえた

 26日の「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」で、4球団から1位指名を受けた近大・佐藤輝明内野手(21)は抽選の末に阪神が交渉権を得た。関西学生野球リーグ通算最多14本塁打(1982年の新リーグ発足後)を樹立したアマ球界NO1スラッガーの軌跡をwebで連載する。今回は最終第5回(取材、構成・伊井 亮一)

 「恋をした」。上宮高(大阪)で巨人・元木大介ヘッドコーチや元広島・黒田博樹氏らを育てた田中秀昌監督(63)は、たった一振りで佐藤にほれ込んだ。

 「プロ志望届を出そうと思わなかった。(プロ入りを勧める)話もなかった」と、スカウト網にかからなかった佐藤は、仁川学院高(兵庫)の2年後半から、関西にある複数大学の練習に参加した。

 フリー打撃で本塁打を打ったこともあったが「一般で来てください」と推薦枠が決まっていたこともあり、芳しい返事はもらえなかった。6月になり、最後に練習参加したのが近大だった。

 その日は雨が降っていた。「(室内練習場では)打球の飛距離が分からない。もったいないな。『近大なんか絶対に無理やな』と思いながら行った」と、中尾和光部長(41)は半ばあきらめていた。

 ただ、田中監督は「ワンスイングで『これは、すごいな。プロやな』と。スイングスピードやパワーが違う」と、潜在能力の高さを見抜いた。近大の2学年先輩で、元仁川学院高監督の馬場弘行氏から「見てほしい選手がいる」という連絡があったのが、きっかけだった。

 推薦枠が埋まっていたため、短大への入学を勧め、3年時に編入試験を受けられるように手配した。「電話がなかったら、今の佐藤がどうなってるか分からない」と、田中監督は運命のような縁を感じていた。

 父・博信さん(53)は高校時代に「校舎を超えるぐらいの打球を打ったら、誰かが見てくれている。何かあるで」と、佐藤にハッパをかけていた。校舎に何度も打球をぶち当て、上階にいた馬場氏に「今、当てたん誰や!」と驚かれた。「近大に行く前に『どんな選手になりたい?』と聞いて(佐藤は)「柳田選手」と答えた。近大やのに『(先輩の)糸井』じゃない…」と、中尾部長が明かしたのも、今では笑い話だ。

 近大の練習では、捕手として二塁までの送球タイムが1秒8の強肩を披露したが、田中監督は打撃に専念させようと野手での起用を決断した。佐藤は入学前から社会人とのオープン戦などで本塁打を放った。外野が空いていたため左翼を守り、1年の春季リーグ開幕戦は「5番・左翼」で先発した。

 田中監督は「球界の素材なので、絶対に使うべきと思って、1年春から使った。高めやワンバンドなど、何でも簡単に振る、扇風機みたいな1年生だった」と、将来を見据えて我慢しながら英才教育を施した。2年時の大学日本代表候補合宿で右肘を痛めなければ、二遊間で起用する構想もあった。

 1年春こそ本塁打0だったが、1年秋から量産を始めた。「グラウンドと寮が近くにあるので、学校が終わってから練習する量は増えた」と佐藤。両親や祖父母から贈られた好物のウナギなどの差し入れが励みになった。「下手くそなメールをちょいちょいする。だんだん大人になって『どうもありがとう!』というのも、少し中身をつけてメールをくれるようになった」と祖母・美智恵さん(81)は笑う。

 家族の応援を受けて努力を続けた結果、2年夏には大学日本代表に選ばれた。1年時に全日本大学選手権に出場し、2年時には明治神宮大会で4強入りした。2年秋と4年秋に最優秀選手に輝き、ベストナインは3度受賞。4年春のリーグ戦が中止になったにもかかわらず、近大の先輩で巨人・二岡智宏3軍監督の関西学生リーグ通算最多本塁打記録を1本更新した。小学校の卒業文集に「将来はプロ野球選手になろうと思います」と記した通り、夢をかなえた。

 かねて「地元が西宮なので一応、阪神ファン」と話していたように、意中だった老舗球団に進む。ファンやメディアが熱狂的なこともあり、周囲はマイペースな性格を心配している。田中監督は「のんびりしている。バスに乗るのもギリギリで食べるのも遅い。ガツガツ感が全くない。トップレベルにいったときにどうなるか分からない。プレーヤーとしては心配していない」と、口酸っぱく指摘してきた。

 一方で、兵庫・西宮市の自宅に戻れば、一回り年下の弟・悠くんの面倒を見る良きお兄ちゃんだ。「一番下の子は小さい時からかわいがっていた。家族で出かけても、チビ(悠くん)と手をつないだり、肩車をするのは輝です」と母・晶子さん(48)。添い寝をして悠くんが眠ると、弟のベッドまで運ぶこともある。

 18日の関大戦で、本塁打の新記録を球場で目撃した悠くんは「すげ~」と声を上げた。「お兄ちゃんは優しいし、パワーがすごい。ボールを投げてくれたりする」と、尊敬のまなざしを向けた。悠くんのヒーローは、プロでもどでかいアーチをかけ、全国の猛虎ファン、プロ野球ファンのヒーローになる。=おわり=

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