王輝 場所前に倒れた父に届ける新十両 母に告げた覚悟「俺は大丈夫だから」

勝ち名乗りを受ける王輝

 大相撲の王輝(24)=錣山=が、西幕下2枚目で臨んだ7月場所(8月2日千秋楽)で5勝を挙げ、新十両に昇進した。2013年名古屋での初土俵から7年。ようやくつかんだ関取の座を、「素直にうれしいです。今までやってきたことや、感謝の気持ちがありました」と、かみしめた。

 勝負の7月場所。実はもう一つ、覚悟を持って挑んだ場所でもあった。6月上旬、父の毅さん(53)が仕事中に倒れた。一命は取りとめたものの、一時は一刻を争った。母・由美子さん(46)は当初「私の心の整理もつかなかった」と、すぐにはその旨を王輝らに伝えられなかったという。だが約2週間後、「周りから聞こえてくるより本人にきちんと伝えて、頑張ってもらうしかない」と電話で父の状態を明かした。大事な場所前の、突然の連絡。それでも王輝は「俺は大丈夫だから」と、一言だけ母に告げた。

 相撲は、大学まで相撲部だった父の影響で保育園から始めた。毅さんによれば、始めた頃は半強制的で、泣きながら取り組んでいたという。ただ周囲よりいち早く始めたことで、幼稚園生ながら小学生に勝つこともあり、相撲の楽しさを見い出した。柔道の全国大会経験者で、現在は新潟県の柔道少年団育成委員も務める母の影響で2人の妹と共に柔道もしていたが、最終的には相撲の道へ。能生中3年時には、全国中学で3位。新十両会見では、「親父がいなかったら相撲はやってないので、感謝しています」と語った。

 7月場所前、息子は父に「今場所で(新十両を)決める」と告げたという。病床で土俵上の姿を見守った毅さんは「本当に、本人より緊張してましたよ」。まだ1人で歩くことは難しく、現在もリハビリ中だ。そんな中、場所中は息子の雄姿が何よりの力となり「順調に白星を積み重ねると思っていなかったので、励みになりました。あの子に勇気づけられるなんて、思ってなかったですけどね」。電話越しでも、そう語る穏やかな表情が目に浮かんだ。

 王輝は、誰もが認める努力の人だ。師匠・錣山親方(元関脇・寺尾)も会見では「何も言わなくても、しっかりやります」と認めていた。両親は、「根は真面目な子」と口をそろえる。優しい性格も父譲り。「もっと強気だったら、もっと早く(関取に)上がるのにね」などと言う人も周囲にいたというが、母は「スター性はないけど、やっぱり一歩ずつ一歩ずつ、着実にやるというのが一毅(王輝の本名)らしい」と、確かな成長に目を細める。

 会見で今後について、王輝は「これからも稽古場で人一倍汗をかいて、弟弟子の見本になるようにやっていきたい」と語った。由美子さんは「本人がまだ、これは通過点でしかないと言っていたみたいなので。ケガなくいけば、着実に力がつくんじゃないかな」と、更なる活躍を静かに見守る。

 リハビリに励む毅さんは、今の気持ちをこう語ってくれた。「徐々に回復を目指して、頑張ろうかなと。(王輝)本人にも会ってみたいと思ってるし、今度はそれを励みに頑張るしかないかなと思っています」。コロナ禍が落ち着き、関取として地元に帰省できる日まで。親孝行はまだ道半ばだが、父は息子と酒を酌み交わす日を楽しみにしている。(大谷 翔太)

 ◆王輝 嘉助(おうき・かすけ)本名・小池一毅 1996年6月12日、新潟・岩船郡関川村生まれ、24歳。幼少から相撲を始め、能生中3年時の全国中学では準決勝で現在の貴景勝(千賀ノ浦)に敗れて3位。13年に海洋高を中退し、同年名古屋場所で錣山部屋から初土俵を踏んだ。185センチ、161キロ。

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