渡哲也さん、療養中に見せた俳優のプライド…記者が悼む

弟・渡瀬恒彦さんの思い出を語ってくれた渡さん。頬に酸素吸引器のチューブの痕が見える(2017年3月17日)

 2017年3月17日、私は渡さんの帰宅を待っていた。亡くなった弟・渡瀬恒彦さんの家族葬を終えた後の夕暮れ時、閑静な住宅街に立つ邸宅の前で張り込んだ。共に役者の道を歩んだ弟を失った悲しみについてプライベートな場所で直撃しなくてはならなかったが、私は一度の面識もない他人に過ぎなかった。

 玄関先に横付けされた高級車。後部座席から降りた渡さんの視界に私が入る。一喝されて当然の状況だったが、名優はなぜか友人に報告するような口調で「今、葬儀が終わって帰ってまいりました…」と言った。当時、既に呼吸器疾患の療養中だったが、寒空の下で足を止めた。「週に3回リハビリをやっています。ご覧の通り、外見は元気なんですけどね」と微笑を浮かべると、頭を下げて自宅に入った。

 背筋の伸びた美しい姿勢だったが、頬には酸素吸入器の痕が残っていた。写真を撮られると分かったため、車内で外したと、後になって関係者から聞いた。俳優としてのプライドに触れたような気がした。

 7か月後、吉永小百合と共演したCM撮影が最後の公の場になった。渡さんは「こんにちは! お忙しい中、ありがとうございます」と大きな声で我々記者を迎え入れてくれた。初共演から半世紀が経過した大女優を見つめ、銀幕復帰への切なる思いを語った。「元気になったら最後の一本は吉永さんとご一緒したいなと思います。大ラブシーンがあるのを。20代の時ももちろんステキでしたけど、年を追うごとにステキになっているから」。吉永は少女のような表情になり「渡さんは初共演の頃からシャイでチャーミングなんですよ…。完全復帰なさって大人の恋の物語をやりましょう」と誓い合った。

 クランクインの日、若い共演者の元へ自ら出向き、直立不動のまま「渡です。よろしくお願いします」と右手を差し出してから仕事を始めるのが渡さんの流儀だった。舘ひろしは番記者が囲む食事会で必ず渡さんの話をした。「渡が言ってくれたんです。『ひろし、俺もお前も大根役者だけど、お前は大根の花を咲かせたんだよ』って…。僕が俳優を続けられたのは、渡がいたから」

 訃報を知った瞬間に抱いたのは記者としてではなく個人としての感情だった。たった2度のわずかな時間に、私も渡さんを想(おも)う一人になっていたのだと初めて分かった。(北野 新太)

石原プロモーション相関図

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