上原浩治、涙の敬遠 誰も逃げたとは思っていない…99年10月5日 巨人カメラマン生涯最高の一枚

7回1死、ベンチの指示でペタジーニと勝負できず涙する上原(カメラ・越川 亘)

 この試合、優勝は遠のいていたとはいえ松井秀喜の本塁打王、ルーキー・上原浩治の20勝がかかり、スポーツ紙には“1面ネタ”のゲームだった。

 7回1死、打席には来日1年目のヤクルト・ペタジーニ。ベンチからは大きな指示はなかった。コーチが一塁を指さしたり、捕手を呼んだりすることもなかった。

 松井は2打席、敬遠されていた。ペタジーニが打席に向かうと「ここは敬遠だな」と他社のカメラマンがつぶやいた。

 選手がベンチからの指示やサインを見ているとき、カメラマンはその様子を必ずチェックする。シャッターチャンスのヒントがあるからだ。長嶋茂雄監督は動かず、座ったままだった。佐野元国バッテリーコーチがそっと敬遠のサインを出した。

 「勝負しろ!」

 ヤクルトファンのヤジが飛ぶ。外角高めに4球目を投げ終え、上原はレフト方向を向き右足でマウンドを蹴り上げた。カメラマン席ではどよめきが起こった。

 気持ちを必死に抑えホームを向いた上原は右手を悔しげに強く振り、うつむく。目は真っ赤。アンダーシャツで2度3度と悔し涙をぬぐった。続く古田、稲葉を仕留めベンチに戻ると、タオルをかぶり感情を押し殺していた。

 「基本的には勝負するつもりだった…」とコメントした捕手の村田善だったが、ベンチのサインには従うしかない。誰も逃げたとは思っていない。完投で20勝目を挙げ、試合後はファンの声援にさわやかな笑顔で応えた上原。右腕の目に、もう涙はなかったのを覚えている。 (越川 亘=入社32年目)

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