羽根田卓也、五輪会場使えず公園の川で漕ぐ…銅メダリストのジレンマを担当記者が見た

鋭い表情でカヌーを操作する羽根田卓也(カメラ・太田 倫)

 カヌー・スラロームの16年リオ五輪銅メダリストで東京五輪代表の羽根田卓也(32)=ミキハウス=は現在、東京都内で単身、トレーニングに励む日々を送る。五輪会場のスラロームセンターは延期に伴う施設管理上の理由から使用再開のメドが立っていない。代わりに公園にあるスラローム場などで工夫を凝らして練習。羽根田の姿を通し、五輪に臨む選手のジレンマを、担当の太田倫記者が「見た」。

 羽根田が今、身を置いているのは激流ではなく、ゆったりとした川の流れだ。

 練習は都内の公園内にあるスラロームコースで行われている。コーチがコロナ禍でスロバキアから来日できず、基本的に練習は1人だ。自粛期間には下半身をいじめ、進化へのヒントを得た。だが、その成果を存分に確かめられるはずの五輪会場、カヌー・スラロームセンター(江戸川区)がいまだに使えない。公園のコースは一般の人も利用できるものだ。

 「今は基本的なことの確認。日々学びがある。飽きないように刺激を入れながら」と前向きだが、水の呼吸を我が物とする繊細な技術は、激流の中でしか磨かれない。海外渡航もできず、大会もしばらくない。「心配なのは技術(の感覚が鈍ること)。補い切れない部分もあるから」と、ポツリと漏らした。

 スラロームセンターはコロナ感染拡大とともに閉鎖した。五輪延期に伴い、仮設スタンドなど施設の管理や、今後の利用手続きなど、想定外の事態が続出した。施設を所有する東京都の関係者は「組織委とも調整しているが、イレギュラーなケースですんなりとはいかない。一刻も早く利用できるようにしたいが…」と苦しい事情を明かす。羽根田以外のスラローム代表も限定された練習を強いられている。日本カヌー連盟も再三、使用再開を要請しているが、芳しい返事はもらえていない。「目の前にコースがあっても練習できず、選手は歯がゆいでしょう。何とか環境を整えてあげたい」と連盟関係者は話す。

 それぞれの立場も理解したうえで、羽根田は言う。「早く元の環境に戻ることを信じてやるしかない」。ジレンマをのみ込み、静かな公園でカヌーをこいでいる。(太田 倫)

 ◆下半身伸びしろ

 羽根田はコロナを機にトレーニングを見直し、「今までは上半身9に下半身1くらい」だったという筋トレを「半々」に変えた。カヌーをこぐ際も「足首で踏ん張るイメージ」を維持し、下半身の力をパドルに伝えるように心がけている。上半身から無駄な力みが消え、カヌー操作に柔軟性が増しているという。「下半身には伸びしろ、可能性を感じている」と、うなずいていた。

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