渡辺麻友は「AKBという看板」のない人生に疲れてしまったのか…思い出す2年前の言葉

2018年5月、主演ミュージカル「アメリ」のゲネプロで抜群の歌唱力を披露した渡辺麻友

 「ひとりでやっていかなきゃいけない」―。元スーパーアイドルの引退の一報を聞いた瞬間、私が思い出したのは、本人の口から思わず漏れた真剣そのものの一言だった。

 元AKB48の女優・渡辺麻友(26)が5月31日付けで所属事務所「プロダクション尾木」との契約を終了。芸能界を引退した。体調不良のため、芸能活動を休止していた本人から「健康上の理由で芸能活動を続けていくことが難しい」という申し入れがあったという。

 同社では「突然の発表になり、長年にわたり応援してくださった皆様には大変申し訳ございませんが、これまでのご支援には深く感謝申し上げます。ありがとうございます」とコメント。渡辺自身も同日夕方にツイッターを5か月ぶりに更新。「私事ではありますが5月31日付けで長年お世話になりましたプロダクション尾木を退所し、芸能のお仕事を離れる運びと致しました」と報告。「これまで関わって下さった皆様、応援してくださった皆様、誠にありがとうございました!」と感謝した上で「世間ではまだ大変な状況が続きますが、皆様くれぐれもお身体にはお気をつけ下さい」と、ファンを気づかった。

 ちょうど2年前の2018年5月18日。渡辺は東京・天王洲銀河劇場に集まった約50人の記者の前で真っ赤なドレスで歌い、踊り、飛び跳ねていた。その前年いっぱいでAKB48を卒業した「まゆゆ」は初主演となるミュージカル「アメリ」の初日を迎えていたのだ。

 開幕直前、主人公・アメリの真っ赤な衣装にボブカットで、待ち構えた記者とカメラマンの前に現れると、「ついに初日の幕が開くんですけど、この作品のお話を最初に聞いたのが1年半前くらい。まだまだ先だなあと思っていたら、あっという間に時間が過ぎて…。今、すごく緊張と不安とドキドキと楽しみと、いろんな気持ちが入り交じっているんですけど、最高の舞台をお届けできるように一生懸命、精一杯頑張りたいと思います」と、トレードマークの大きな目を輝かせた。

 会見直前、2時間に渡って取材陣に公開されたゲネプロでもAKBの11年間で鍛え抜かれたダンスを披露。ウェイトレス、修道女など様々な“コスプレ”で観客を楽しませた上、肝心の歌の方も全20曲を堂々熱唱。クライマックスには、恋人役の太田基裕(33)とのキスシーンまで披露。これはAKB時代を通じて、全く初めてのキスシーン挑戦。カメラのフラッシュが光りまくったのを、鮮明に覚えている。

 06年、12歳で創設期だったAKBのオーデイションに合格。3期生としてデビューすると、「まゆゆ」の愛称のもと、「神7(セブン)」の一角として、2014年6月のシングル選抜総選挙では史上最多(当時)の15万9854票を獲得して1位となるなど、11年間に渡って、エースとして活躍した。

 女優としてのスタートとなった天王洲銀河劇場でのゲネプロを見た時、その輝きに私は「まったく新しい、まゆゆだ。かなり振り切って、ミュージカル女優に徹しているなあ」―。そう思ったから、会見でも、そのまま聞いてみた。

 「AKBという看板がなくなって5か月。エースとして背負ってきたものを下ろしたホッとした気持ちとAKBという大きなブランドがなくなった不安と、今、どちらが大きいのですか?」―

 一瞬、「ええと…」と口ごもった元アイドルは、まっすぐこちらを見つめると言った。「正直に言うと、不安の方が大きいですね、やっぱり。1人でやっていかなきゃいけないので、そういう不安はあるのですが…」と言った後、「でも、舞台は、やっぱり生ものですし、自分自身が楽しむということもすごく大事だと思うので、その気持ちを忘れずに精一杯、挑みたいと思います」。舞台の“座長”として、気合たっぷりの言葉を続けた。

 そう、その言葉に最も力がこもったのが「一人でやっていかなきゃいけない」という一言を口にした瞬間だった。

 その言葉通り「まゆゆ」は“一人で”頑張った。同年8月放送のドラマ「いつかこの雨がやむ日まで」に主演。19年にはNHK朝ドラ「なつぞら」にも出演した。

 一方でこの1年間、その周辺に暗雲が漂っていたのも事実。昨年9月末でオフィシャル・ファンクラブを休止。16万人のフォロワーがいるインスタグラムも同年9月28日を最後に更新が途絶え、ツイッターの書き込みも今年1月1日の「あけおめ」という、つぶやきが最後だった。何より進行、アシスタントとして新境地を開いたTBS系「UTAGE!」が2月16日に放送されたが、そこに渡辺の姿はなかった。

 正直に言うが、2年前、舞台上での存在感たっぷりの演技を見た私には、2年後の引退発表に「もったいないなあ」という思いしかない。

 引退を速報した1日放送の日本テレビ系「情報ライブ ミヤネ屋」に電話出演した芸能リポーター・井上公造氏(63)は「彼女が所属していたのは(タレントを)我が子のように育てる事務所。ですので、女優、タレントの渡辺麻友よりも一人の女性として、どう選択するのが幸せかと考えた最終結論が引退だったんだと思います」と話した。

 この「一人の女性としての幸せ」という言葉は私の胸にもストンと落ちた。なぜなら、誰の人生にも波があり、転機があるから。

 ここ数年、出版不況の中、定年後の人生を考える“定年本”が売れ続けている。ビジネス評論家・楠木新さん(66)の著書「定年後」がベストセラーになったのは、やはり、2年前だったか。人生80、90年時代に突入した今、会社の肩書がなくなった後、一個人として残りの人生をどう生きるか―。新型コロナウイルスの感染拡大が人々の働き方まで変えつつある今、それが多くの人にとって、大きな課題であり、関心事になっている。

 私のような一サラリーマンだって、定年を迎えた日から自分の名前の前から会社名も、役職名も消える。自分一人の足で立って、最終的には一人で生きて、一人で責任をとっていく―。それが人生というものかと思いつつ、「その日」を迎えるのが怖かったりもする。

 そんな人生模様は一見、華やかな芸能界だって一緒かもしれない。「AKB」という11年間に渡って背負ってきた看板がなくなった時、渡辺の胸には、どんな思いが去来したのか。2年前、彼女は、どんな思いで「一人でやっていかなきゃいけない」と口にしたのだろうか。ひょっとして、AKBという鎧(よろい)を脱いでの「たった一人」の戦いの中に彼女を疲弊させる何かがあったのか。

 そこには、自分を有名にしてくれ、守ってくれた一方で大きなプレッシャーにもなってきただろう大看板を降ろした時、タレントは、いや1人の人間は、どうやって生きていくのか―。そんな大き過ぎる命題が横たわっている気がする。

 1回、ゲネプロを見ただけの私でも“天職”と映った女優業を断念せざるを得ないほどの渡辺の「健康上の理由」が、どんなものかは分からない。ただ、一人の女性としての「渡辺麻友さん」が幸せであること。その笑顔に癒やされた経験を持つ私は今、それだけをひたすら願っている。(記者コラム・中村 健吾)

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