【巨人】スガコバ“解散”で見えたもの 小林誠司、30歳の変化〈1〉

自主トレでキャッチボールをする小林

ひんやりとした空気の室内練習場に響いたのは、ミットを切り裂くような乾いた音だけだった。

小林誠司が投げる球は、後輩が胸元で構えたキャッチャーミットを微動だにさせず、ビシビシと収まった。

1月の古巣・日本生命の本拠、大阪・貝塚市の施設で行う自主トレ。

他球団の面々とともに行う練習に、昨年と変わりはない。変わったのは、小林が新顔を連れてきたことだった。

自慢の肩は健在だ

2年連続ラブコールしてきた巨人の後輩捕手、育成3年目の広畑塁。昨年は断って「逃げた」が、今年は受け入れた。

「僕ももう30になって、今年31の年で。後輩とこうやって一緒に自主トレをして、まあそういう立場になっていかないといけないなと」

後輩には背中を見せることも

なるほど。1億円プレーヤーになると、こうやって人は変わるのか―。

男30歳で芽生えた自覚

「年俸ではないっす。お金じゃないんですよ。お金もらってるから偉いとか、そんな感覚ないし」

オフの契約更改で4000万円増の年俸1億円(推定)を手にした男は、笑いながら否定した。その姿は、これまで通りの人懐っこい雰囲気。ただやはり、確実に変化を遂げていた。

ちゃめっ気たっぷり

淡々とメニューをこなすだけの時間が流れるわけではない。

自分の練習がひと段落すると、後輩のもとへ近づいた。

ソフトバンクの九鬼隆平がオリックスの鈴木優の球を受けていた。そっと見守る。そして鈴木に声を掛ける。「ツーシームはどんな意識で投げてる?もっと…」アドバイスが続いた。

他の選手の動きにも注目

中堅選手としての目覚め―。

「責任は出てきますよね。自分がチャランポランしてたら、そら(後輩は)付いてこないっすもん。まあ、変なことはしてないと思う」

照れ笑いを見せたが、ちょっとだけ胸を張っているようにも見えた。

30歳になって駆け抜けたシーズンで、小林を変えたものがあった。

またしても届かなかった正捕手の座

5年ぶりリーグ優勝の瞬間、マウンド上の守護神・デラロサと抱きついたのは小林だった。

「優勝はしましたけど、個人としては正直…不本意という言い方はおかしいですけど、まあもっと試合に出たかったなとか、もちろん成績も出したかったというのがある」

毎年毎年期待される同じこと。「正捕手になれ」。そして昨年もまた、その課題はクリアとはならなかった。

課題の打撃力アップを図る

「実際100試合出てませんからね。まだ(自分が正捕手と)思えないのが本音です。足りない部分があるのは重々承知してます」

フリーエージェント(FA)として昨季から加入した炭谷銀仁朗と、強打が売りの2年目・大城卓三と併用された。92試合に出場したが、スタメンマスクは68試合にとどまった。

試合中、原監督からアドバイスを受ける

「つらかったっす。試合に出られなかったら、つらいっす」

当たり前ではなくなった「スガコバ」

優勝はしたものの、エース・菅野智之は腰痛などで離脱もあり、チームの勝ち頭として活躍したシーズンでもなかった。

同級生としてチームを引っ張るべき小林との“スガコバ”バッテリーも当たり前ではなかった。菅野が先発した22試合中、小林が受けたのは15試合だった。

菅野とのコンビは今年何度見られるか

菅野の球を受けないで正捕手と言えるのか―。

「そんなん、察してくれたらわかるじゃないですか。なんで言わせようとするんですか!」

苦悶(くもん)の表情を浮かべる

もちろん小林はスガコバ解散なんて望んでいない。菅野への思いは、相変わらず人一倍だ。

「同級生ですけど、入団してからずっと支えてくれてる存在なんで。本来ならば、守備位置からしても女房役として、僕が色々しないといけないんですけど、逆になってますよね、グラウンド内外で。気にはずっとしてくれてますよ」

感謝の思いは尽きない。だが、スガコバと期待され続けることについて問うと、小林の口から「智之」と呼ばないコメントが飛び出した。

離れることの必要性

「菅野なら、誰が受けても勝てるんだから」

語気を荒げた。

「それぐらいのピッチャーです」

同級生だからこそ、同じような立場で物事を見られる存在になろうとしているのかもしれない。

ウェートトレにも熱が入る

これまで菅野には背中を押してもらってきた。「お前からももっと思ったことを言えよ」と、チームを引っ張っていく存在になるよう促されてきた。

それを今、小林は実行しようとしている。

「智之と組みたい気持ちはあるけど、そこだけにならず、いろんなピッチャーを受けて、若いピッチャーもいっぱい受けて、一緒に成長して強いジャイアンツを作っていきたいなという気持ち」

坂本勇人がキャプテンとして初めてリーグ優勝。先輩と言えども、1歳しか変わらない人の背中を見て、30歳になった自分にも、芽生えてくるものがあった。

「勝ちたいから、です。日本一になりたいから、です」

リーグで連覇を果たして日本一になるために、小林もキーは投手陣にあると考える。だからこそ、扇の要としての思いは強い。

休憩中に笑顔を見せる

「僕が一生懸命受けて、成長した選手が一気に何人も出てきたらうれしいじゃないですか」

そう語った小林の目は、輝いていた。

後編に続く

◆小林 誠司(こばやし・せいじ)1989年6月7日、大阪・堺市生まれ。30歳。広島・広陵高では野村(現広島)とバッテリーを組み、2007年に春夏連続甲子園に出場、夏は準V。同志社大では4季連続優勝に貢献。日本生命から13年ドラフト1位で巨人入団。178センチ、85キロ。右投右打。年俸1億円。

すべての写真を見る 11枚

最新一覧