立川志の輔「こんなすてきなオチないじゃん」初主演映画「ねことじいちゃん」に感動

65歳で映画初主演する立川志の輔は、おしゃれな蝶ネクタイ姿で笑顔

 落語家の立川志の輔(65)が「猫の日」の22日公開の映画「ねことじいちゃん」(岩合光昭監督)で初主演する。動物写真家として世界的に活躍する岩合氏の初監督作品。落語の世界とは違う役者業に苦戦しつつ、未知の空間は刺激的な体験だったという。映画では、妻に先立たれ愛猫と暮らすおじいちゃん役。家族や友人、ペットとの死別…。人間ならいつか必ず訪れる“別れ”との向き合い方についても語った。

 65歳での映画初主演。運命の始まりは、エレベーターだった。2013年。複合施設「渋谷ヒカリエ」の劇場・シアターオーブで観劇を終え、帰途に就いた志の輔が乗り込もうとしたエレベーターは満員だった。 「しょうがないからエスカレーターで下りた、その1つ下の階で岩合さんの写真展をやっていて、ポスターの猫がぽーんと空中を飛んでいたんです」

 思わず入場し、猫たちの自由な写真の数々に圧倒された。自身のレギュラー番組のスタッフが、AD時代に岩合監督と仕事をした経験があったという偶然もあり、一度食事をともにした。以降は一人の写真家として尊敬していたが、2年前にメールで今作の出演依頼が届き、志の輔は仰天。一度は断った。

 「怖いし、恐れ多いし。そりゃ断りますよ。でも、メールだけでは申し訳なくて『通行人役でも何役でもいいですから、ワンシーンなら出ます』とお返ししたら、何度も一生懸命に(主演をと)おっしゃってくださって、結果的に『お願いします』となりました。岩合さんだから。どんな映画でもどんな監督さんでも引き受けなかったと思います」。不思議な縁がつなげた出会いだった。

 1か月間じっくり向き合う映画の現場は、未知の体験ばかりだった。「落語は、独特の話法でやっているだけですから、(役を)演じているようで、演じてるわけではない。何秒かしか使わないワンシーンのために40分ぐらい準備をかける。このなかで一言(せりふを)言うのかいって…。メイクでも白髪一本一本、植えていかれる。落語家が味わう世界じゃないですよ。落語とは違う疲れでした」

 愛猫のタマの存在は救いでもあった。「タマはストレスをどうやって解消してるのかと思うぐらい、膝の上で『あんたに飼われてます』って感じでいてくれた。(撮影が)全部終わりましたと言われた時、タマや、50~60人のスタッフともお別れなんだと思うと不覚にも涙が出ました」。今までに抱いたことのない感覚だった。

 これまで、自らの意思で猫を飼ったことはない。別れがつらいからだ。「生きてる時はいいけど、死んだら何十倍も泣くことになるんだから、飼わない方がいい、というじいちゃんの教えで。でも、亡くなるのがどっちが先がわからないけど、もし縁があって自分のそばに来てくれたんなら、一緒にいられる時間を楽しんで過ごして、その思い出を持っていられることこそ、豊かに暮らせることなんじゃないかと思い始めました」

 その思いはペットだけでなく、人であっても一緒だという。「師匠の(立川)談志が亡くなって8年になりますけど、存命中よりも談志の声を聞くタイミングが多い。CDやDVDを見たり、ドキュメンタリーのナレーションを頼まれて、秘蔵映像で『こんなこと言ってたんだ』と知る。別れを思うより、この人がいてくれるだけで、とポジティブに捉えるんだとしたら、今の自分って相当、幸せなんじゃないかな」

 落語にはオチがつきものだが、多くの人にとって、日常は当たり前のように続いていくものだ。「この作品って、日常に起こってることしか起こらない。最初に脚本読んだ時『なんか起これよ』と思ったけど、できあがった映画で1人と1匹が生きていくシーンを見て、こんなすてきなオチないじゃんと思えた」。志の輔の人生における「幸せ」の概念を、映画が見つけてくれた。

 岩合光昭監督「最初に断られた時はショックでしたが、何度もお願いして『出ていただけなかったら、この映画やめます』とまで言いました。最後に電話をくださって『やってみます』とおっしゃってくれた時は、天井に頭をぶつけるぐらい喜びました」(完成披露あいさつより)

 ◆立川 志の輔(たてかわ・しのすけ)1954年2月15日、富山・新湊市(現・射水市)生まれ。65歳。明大卒業後、劇団養成所、CM制作会社勤務を経て、83年に立川談志に入門。90年に真打ち昇進。95年からNHK「ためしてガッテン」(現在は「ガッテン!」)の司会を務めている。2015年に紫綬褒章を受章。

 ◆「ねことじいちゃん」 2年前に妻(田中裕子)に先立たれた70歳の大吉は、生まれ育った小さな島で、愛猫のタマと暮らしている。島にカフェを開いた美智子(柴咲コウ)に料理を教わり、亡き妻の残した料理レシピノートを完成させたり、幼なじみの巌(小林薫)ら友人たちと、のんびり日々を過ごしている大吉とタマだが、穏やかな日常のなかにも変化が表れ…。

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