松本白鸚、76歳の飽くなき探求心…親子3代襲名披露成功し「歌舞伎への情熱、さらに増した」

「一條大蔵譚」で大蔵卿を演じる松本白鸚

 松本白鸚(76)が、東京・歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」(26日まで)の「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」で“つくり阿呆(あほう)”の大蔵卿を47年ぶりに演じ、話題を呼んでいる。昨年は長男・松本幸四郎(46)、孫・市川染五郎(13)と親子3代の襲名興行を成功裏に終えた。今年は歌舞伎以外でも10月に代表作「ラ・マンチャの男」も控え、77歳になるが、攻めの姿勢が止まることはない。「飽くなき探求心」はどこからくるのか―。(内野 小百美)

 「人生100年時代」といわれ始める中、尽きることのない歌舞伎への情熱。常識的な年齢を考えれば、演じ慣れた役を掘り下げる俳優が多いが、白鸚は違う。47年ぶりに挑んでいる大蔵卿は「白鸚と名前が変わり、昔やった役をもう一度、ひとつひとつ勉強し直したい」との決意の表れ。初役時(72年12月、帝国劇場)は常盤御前を坂東玉三郎(68)、鬼次郎を中村吉右衛門(74)の配役だった。

 「播磨屋の祖父(初代吉右衛門)が得意とした役。ずいぶん早くにやった時、中村屋のおじ(17代勘三郎)に教わったことを思い出しています」

 華やかな人気演目。難役の大蔵卿は平家全盛の世で源氏寄りの心を隠し愚かな姿を装う。阿呆と正気、公家と武家の言葉遣いの演じ分け。観客は役の変化の瞬間を見ようとする。「“つくり阿呆”となって源氏が旗を揚げる日が必ずくると信じて待っている」。外見とは違った激しい内面、計り知れない孤独。ドラマに満ちた演じがいのある大役だ。

 3歳で初舞台を踏んで今年77歳。74年間舞台に生きてなお「飽くなき探求心」に駆り立てるのは襲名披露を成功させられたことが大きい。完全燃焼的な思いとは違う。「感謝の気持ちを思うほど、僕の中での歌舞伎への情熱が逆に増しているのです」と言い切る。

 名優の中の名優、初代吉右衛門、6代目尾上菊五郎、7代目幸四郎。白鸚はこの3人に「僕は、今も憧れの存在」といい、「朝日に向かって走るような青臭いお話と思われるかもしれないけれど。自分の抱えてきた“憧憬”が全く失わなれていないことに気づくのです」。

 白鸚は、2年前からこんな予告をしていた。「人生のアディショナルタイムに突入したが逆転もある。その心意気」と。「逆転」の意味を、このとき本当に理解できた人はどれくらいいただろう。

 高麗屋3代の襲名披露は、平成最後の襲名興行となった。「僕の中では一線を退く、若い人に譲ってしまう、という気持ちとは全然違うのです」。当たり役を見納めにする時「一世一代」という。白鸚はこれを使わない。一貫して「最後にするかどうかは、自分でなくお客さまが決めるべきもの」という考えだ。

 「襲名は襲命」ともいっていた。「でもいくら何代目と言っても歌舞伎俳優の芸は一代限り。いなくなれば、おしまいなんですよ」。「芸」は、はかないからこそ人の心を揺さぶる。「後に続く者たちが、いかに先輩の芸を凌駕(りょうが)するか。そのための努力をどこまでできるか。これこそ歌舞伎の伝統。僕は今、こんこんと湧き出る泉のように、みずみずしさにあふれた気持ちです」。3月には「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」の“吃又”(どもまた)こと又平を、30年ぶりに演じる。

 ◆松本 白鸚(まつもと・はくおう)本名・藤間昭暁。1942年8月19日、東京都生まれ。76歳。46年2代目松本金太郎を名乗り初舞台。49年6代目市川染五郎襲名。81年9代目松本幸四郎襲名。「勧進帳」の弁慶を1100回以上演じる。他の代表作にミュージカル「ラ・マンチャの男」、「アマデウス」。NHK大河ドラマ「黄金の日日」(78年)、「山河燃ゆ」(84年)で2度主演。弟は2代目中村吉右衛門。長女・松本紀保、次女・松たか子は女優。日本芸術院会員、文化功労者。

 ◆1月の演目と主な出演者

 ▼昼の部 「舌出三番叟」(中村芝翫)、「吉例寿曽我」(中村福助)、「吉田屋」(松本幸四郎)、「一條大蔵譚」(白鸚)

 ▼夜の部 「絵本太功記」(中村吉右衛門)、「勢獅子」(中村梅玉)、「松竹梅湯島掛額」(市川猿之助)

 ◆幸四郎を絶賛「よくやった」

 白鸚は、息子の幸四郎、孫の染五郎の成長について「本人たちが目の前にいないから言いますけどね。2人ともよくやったと思います。特に幸四郎」。襲名披露の最後の劇場は昨年11月、京都・南座。「勧進帳」で幸四郎は弁慶を演じた。「声もよく出ていた。動き、振り、所作、最後の“飛び六方”の引っ込みに至るまで。しっかり、きっちり。うれしかった」と我が子ながら、たたえた。

 襲名披露の全300ステージで行動をともにした。「幸四郎は口上で『歌舞伎職人になりたい』と言いましたが、10代目を襲名してもらい本当によかった」。イケメンぶりも注目された染五郎に対しては「これから山もあり谷もあり。どんな状況に立たされても自分で克服する力を持って歩んでいってほしい」と話した。

 ◆根っからの巨人党、原監督が「楽しみ」

 巨人ファンでも知られる白鸚。昨年は多忙ながら2度観戦。1勝1敗だったという。最近は選手の思わぬ移籍などでG党にも衝撃が走っているが「原(辰徳)監督には、勝っても負けても巨人らしい試合をお願いしたい。どんなジャイアンツらしさを見せてくれるかが楽しみ」とコメント。

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